2014年12月30日火曜日

「アメリカ経済を保護するための政府の権能をないがしろにするような通商協定を許容することはできない」ウォレン議員らがフロマン代表宛の書簡

先に日本からは、12月7~12日のワシントンでの首席交渉官会合に向けて、12月10日付けでUSTRフロ-マン氏に宛てた書簡が出されましたが、米国では17日付で3名の著名な上院議員がフロ-マン氏に宛てて、TPP交渉を批判する書簡を出しています。その一人ウォ-レン議員は破産法の専門家で金融界に対する厳しい姿勢の持ち主として知られ、でTPPの秘密交渉を批判しています。
九州大学大学院教員の磯田 宏さんが翻訳されたものを同氏の了解を得てブログ掲載・配信をさせていただくものです。(翻訳:磯田 宏/監修:廣内かおり)

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2014年12月17日

USTR フロマン代表殿

我々は、TPPによって、連邦議会や規制当局が金融危機を未然に防ぐことが今以上に難しくなることを懸念している。何百万もの家族がいまだに先の金融危機とその後の大不況から立ち直るために苦闘しているなか、アメリカ経済を保護するための政府の権能をないがしろにするような通商協定を許容することはできない。
我々が懸念しているのは、TPPに含まれる可能性のある以下の3つの条項に関するものである。

投資家対国家間紛争解決
投資家対国家間紛争解決制度において、外国企業はアメリカの裁判所を迂回し、いずれの国の法体系にも属さない民間弁護士で構成された陪審団に、アメリカ政府の政策を訴えることが可能になる。  またその外国企業が勝訴した場合、陪審団はアメリカの裁判所の再調査なしに、アメリカの税金による賠償金の支払いを命じることができる。このように投資家対国家間紛争解決制度は、外国企業に対してアメリカの企業よりも強力な対アメリカ政府訴訟権限を賦与していることになる。また、投資家対国家間紛争解決制度を利用できるのは(外国の)投資家のみであることから、この制度は、当該通商協定に利害を有する労働組合、環境団体、あるいはその他の、投資家でない利害関係者よりも、はるかに強力な政府の施策に対する訴訟能力を投資家たちに賦与している。

これまでの通商協定にも、外国企業が投資家対国家間紛争解決制度を利用して政府のさまざまな金融政策を訴えることが出来る条件が含まれていたことはある。例えば2006年に、投資家対国家間紛争陪審団がチェコ政府に対してオランダ投資企業に2億3,600万ドルの支払いを命じたが、このときはチェコ政府がそのオランダ投資企業が所有権を有する民間銀行を救済しなかったという理由であった(※翻訳者:注を省略し、その概要を盛り込んだ)。

TPPの類似の条項によっても、アメリカの多岐にわたる極めて重要な金融規制が、さらに多くの外国企業から訴えられるという問題が起きる可能性は十分にあるだろう。それにもかかわらず、最近の議会での説明でUSTRは、アメリカの交渉官はTPPにさらに広範な条項を含めることを望んでいると言明した。これはアメリカの金融規制に関連して、外国企業に「最低待遇基準」を保証しようとする条項である。これまでアメリカが締結したいかなる通商協定でも、アメリカの金融政策がこれほどあいまいな義務に晒されたことはなかった。「最低待遇基準」条項とは、アメリカの通商協定の下でおこなわれたこれまでの投資家対国家間訴訟における、ほとんどの勝訴の根拠にほかならない。この条項がTPPで金融政策にまで拡張されれば、一外国企業の期待を裏切ったという理由で、アメリカの金融規制が訴えられる可能性が出てくるだろう。

私たちは、TPPに投資家対国家間紛争解決制度を含めるべきではないと確信している。TPPにそのような条項が含まれれば、アメリカの納税者は巨額の損失に晒され、政府が外国の銀行に影響を及ぼす新たな規制の策定や施行を躊躇する可能性が出てくる。その結果、わが国の規制関係諸機関は次なる金融危機を未然に防ぐ手段を剥ぎ取られてしまうことになるだろう。

市場アクセス
私たちは、WTOによって明記されたものと類似の「市場アクセス」の規則を、アメリカの金融部門にも負わせる条項を含めることにも懸念を抱いている。アメリカの金融市場へのアクセスを阻むとして、こうした規則は、極めてリスクの高い形態の金融派生商品など略奪的または有毒な金融商品への基本的、非差別的な(米国の)規制すらも禁止していると解釈される可能性があるのだ。また、こうした「市場アクセス」の規則は、預金者の資金を高リスク取引から守るための(米国の)規制など金融機関の規模や事業活動に関する制限についても、禁止あるいは抑制していると解釈される可能性がある。

消費者を保護し、連鎖的金融危機の根源に対処するためには、連邦議会が有害な金融諸商品や、金融機関の行動あるいは構造を制限できる柔軟性を保持することが欠かせない。私たちはそうした柔軟性を制約する条項をTPPに含めることに反対する。

資本規制
私たちは、政府が資本規制を行使する権能を制約する可能性がある条項をTPPに含めることにも反対する。IMFおよび主導的な経済学者らは、金融危機を未然に防ぎあるいは緩和するための正当な政策手段として、資本規制を支持してきた。資本移転の無制限な自由を義務づけた過去の通商協定の条項がTPPに含まれれば、TPPが、資本規制のみならず金融取引税のような基礎的改革手段を立法化する連邦議会の権限までも制約する可能性が出てくる。TPPによってこのような手段が排除されてはならない。

従って私たちは、2014年(※2015年の誤植か)1月6日までに以下の質問に回答するよう要求する。
1.TPPにこれらの諸条項を含めることについて、USTRはいかなる立場にあるのか?
2.もしUSTRがこれら諸条項のいずれかでもTPPに含めることを支持しているのなら、UST
Rは、何故これらの諸条項が連邦議会および規制諸当局が将来の金融危機を未然に防ぐのに役立つと確信するのか?

加えて私たちは、本書簡で議論してきた3つの条項に関連するアメリカ政府の諸提案および未合意の交渉中の条文の全てを、フロマン代表から私たちに提供するよう要求する。この要求はTPPの投資、金融サービス、投資家対国家間紛争、および例外規定に関する、未合意の条文ならびに関連するすべてのアメリカ政府提案を含むものであるが、これに限定されるものではない。最近TPP参加各国が妥結は真近であると言及していることから、これらの資料を2015年1月6日までに提供するよう要請する。

私たちはこれらの決定的に重要な諸問題についてフロマン代表と協働することを望んでいる。

連邦上院議員
エリザベス・ウォレン(Elizabeth Warren、民主党・マサチューセッツ州選出)
タミー・ボルドウィン(Tammy Baldwin、民主党・ウィスコンシン州選出)
エドワード・J・マーキー(Edward J. Markey、民主党・マサチューセッツ州選出)

※ウォレン議員による書簡発表会見(写真も)および書簡本文についてのサイトは、
http://www.warren.senate.gov/?p=press_release&id=693
(翻訳:磯田 宏/監修:廣内かおり)

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