2015年11月25日水曜日

12.9に『検証TPP ― 全国フォーラム』を参院会館にて開催

12.9『検証TPP ― 全国フォーラム』のご案内

<よびかけ>
 さる10月5日、アトランタで開催されていたTPP交渉閣僚会合は、「大筋合意」を発表して閉幕しました。1カ月後の11月5日には、オバマ大統領が協定に署名する意向を議会に通知し、事態は進行しています。
 ところが、徐々に公表されつつある「合意」内容を見ると、農産物関税の扱いは国会決議違反といわざるを得ないのではないでしょうか。さらに日米並行協議を含めルール問題の内容をみても、日本政府の説明とは異なり、多くの人たちが抱いてきた懸念が払拭されたとは思われません。政府は「合意」の全容も明らかにせず、国会承認もないのに、マスコミを使って「消費者には利益」「中小企業も活用できる」などの宣伝や事後対策論議をすすめています。速やかに全容を明らかにして、国民的議論に付すべきです。
 この「フォーラム」では、入手可能な部分から見えるTPP「合意」の問題点を検証するとともに、今後全国でどのような運動をすすめるのかを交流し、考えます。
たくさんの方々の参加をよびかけます。


<よびかけ人>(50音順)
天笠啓祐(遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン代表)
石田敦史(パルシステム生活協同組合連合会理事長)
内田聖子(アジア太平洋資料センターPARC事務局長)
加藤好一(生活クラブ事業連合生活協同組合連合会会長理事)
菅野芳秀(TPPに反対する人々の運動共同代表・山形百姓)
坂口正明(国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会事務局長)
鈴木宣弘(東京大学大学院教授)
住江憲勇(全国保険医団体連合会会長)
醍醐聰(TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会よびかけ人)
田沼征彦(TPP等と食料・農林水産業・地域経済を考える岩手県民会議代表世話人)
中野和子(TPPに反対する弁護士ネットワーク事務局長)
庭野吉也(東都生活協同組合理事長)
原中勝征(TPP阻止国民会議代表世話人)
藤澤直広(滋賀県日野町長)
藤田和芳(株式会社大地を守る会代表取締役)
本田宏(外科医、医療制度研究会副理事長)
山田正彦(TPP差止・違憲訴訟の会幹事長)
山根香織(主婦連合会参与)

<開催要項>
1.日時:2015年12月9日(水)13時~17時
2.会場:参議院議員会館「講堂」
(*入館票は12時30分からロビーで配付します)
3.内容:(*現在報告者など調整中)

<第1部>「TPP『合意』を検証する」
  報告①TPP交渉「合意」が意味するもの
  報告②各分野で「懸念」はどうなるのか・・報告と質疑(数本)
   =農業、医療の営利化、ISDと政府調達・国営企業、食の安全、著作権等

<第2部>「TPP協定の調印を止めるために」
 報告③TPP協定・・今後の流れと運動課題-国際連帯も含め

討論=各地、国民各層で行われている運動交流と今後の取り組みについて
   
4.主催等:上記よびかけ人による開催とし、広く参加を呼びかけます。

5.参加申し込み:準備の都合もありますので、できるだけ事前に下記共同事務局のいずれかに、別紙を利用してFAXか、メールで都道府県・団体(所属がない場合は不要)・氏名をお知らせ下さい。
    
6.資料代:500円(当日会場にてご協力下さい)

7.共同事務局:
・TPP阻止国民会議(連絡先:山田正彦法律事務所)
  千代田区平河町2-14-13 中津川マンション201(℡03-5211-6880 FAX03-5211-6886)
・STOP TPP!!市民アクション(連絡先:全国食健連)
渋谷区代々木2-5-5 新宿農協会館3階(℡03-3372-6112 FAX03-3370-8329)
 Eメール:center※shokkenren.jp(※を@に変換)
以上

2015年10月7日水曜日

【共同声明】国会決議違反のTPP「大筋合意」に強く抗議する

共同声明

国会決議違反のTPP「大筋合意」に強く抗議する

2015年10月7日

醍醐 聰(TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会よびかけ人)
中野和子(TPPに反対する弁護士ネットワーク事務局長)
山根香織(主婦連合会参与)
STOP TPP!!市民アクション 有志


 9月30日からアメリカのアトランタで開始されたTPP閣僚会合は、3度も延長されるという異例の事態の中、10月5日昼前(日本時間10月5日深夜)、「大筋合意」を発表して閉幕した。
 安倍首相はこれを歓迎し、「日本のみならず、アジア太平洋の未来にとって大きな成果」と自画自賛しているが、とんでもない。
 安倍内閣は、交渉参加以来2年余、国会決議が求める情報開示も、「保秘契約」を盾に拒否して秘密交渉を続けてきた。また、「大筋合意」で到達した内容は、国会決議が「除外又は再協議」とした米など主要農産品で、TPP輸入枠を設定して輸入増を受け入れるだけでなく、関税の大幅削減や一部関税撤廃を受け入れ、豚肉・牛肉ではセーフガード廃止の仕組みにさえ合意している。「関税撤廃に例外を勝ちとった」として、国会決議を守ったかのように語ることは、とうてい認められない。
 農産品以外でも政府に都合のよい説明はあるが、これまで多くの懸念が表明されてきたISDs条項、自治体を含む政府調達の規定、国営企業の扱い等について、充分な説明が行われていない。
 私たちは、今回の「大筋合意」は、明らかに国会決議に反するだけでなく、国民への説明責任も果たしていないもので、とうてい認める訳にはいかない。
 「大筋合意」は、TPP交渉の終了を意味しない。TPA法に規定されるアメリカを含め、参加各国の国民、議会がこれを受け入れるかどうかにかかっている。政府は、国民と国会に速やかに「合意」の詳細を明らかにし、国民的な議論を保障すべきであり、国会も、主体的な立場で「大筋合意」を検証し、受け入れを拒むべきである。

以上

2015年9月25日金曜日

日本と北米3ヶ国 自動車原産地規制で埋まらぬ溝

日本とNAFTAに参加する北米3か国(米国、カナダ、メキシコ)の間で、自動車および自動車部品の原産地規則に関する対立があります。現在残されているTPP交渉の主要対立点は、生物製剤の新薬データの保護期間、乳製品と自動車の原産地規則とされています。ところがニュー・ジーランドではキー首相もグローサー貿易担当相もここ2〜3日間、乳製品で大幅な目標を獲得することを諦めて国内を納得させるような発言が目立っています(次回の会合で合意できる内容が、我々が最大限獲得出来るもので、我が国にとって最良の結論だ)。

そして一方カナダでは総選挙で火花を散らしていることもあり、連日自動車の原産地規則問題が報道をにぎわしており、労組、地方自治体が反対の声を挙げています。米国・カナダの自動車業界はメキシコの輸出加工区に大きな投資をし、投資先の部品工場・自動車工場は米国とカナダが最重要の市場になっています。そしてただでさえ近年中国や東南アジアからの輸出に市場を奪われつつあります。自動車の原産地規則はほくべ3ヶ国にとって重要な問題であることは間違いありません。(2015年9月24日)(翻訳:田中 久雄/監修:廣内 かおり)



           ★ ★ ★

自動車部品産業界が交渉会合に先立ち、TPPの原産地規則に圧力2015年9月10日付インサイドUSトレード紙から

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)における自動車原産地規則に関する今週(9月9日~11日)の4カ国交渉会合に先立ち、米国と日本がすでに取決めたこの分野の原産地規則をより強力なものにすることを、米国自動車部品メーカーは求めた。しかし完成車については、両国が出した結果以上に厳しい原産地規則を明確に要求するには至っていない。
米国自動車・部品産業協会(MEMA)は、マイケル・フローマン米国通商代表への9月9日付けの書簡と、カナダとメキシコの同業者団体と共に3ヶ国政府に送付した9月8日付けの共同書簡の中で、自動車部品の30%という域内原産比率(RVC)に反対した。しかし、両書簡では、米国と日本が自動車完成品について定めた45%という域内原産比率に明確には反対しなかった。

日米間の取決めに、カナダとメキシコの政府は、域外調達の割合をあまりに大きく容認し過ぎているとして7月に拒否したが、それには最低基準に適合すれば自動的に域内調達と見なす7種類の自動車部品リストもまた含まれていた。(インサイド米国貿易、8月28日掲載版)

9月9日付の書簡では、MEMA代表兼最高経営責任者のスティーブ・ハンシュ(Steve Handchuh)は、域内原産比率をあまりに低くすると、TPP域内で操業している米国自動車部品製造業者と、その域外で操業している日本の製造業者との競争関係を悪化させるだろうとほのめかした。彼はフローマンに対して、確実に「自動車部品の原産地規則が、自動車の完成品のために成立させた合意を(反映する)」よう要請したが、両方の分野の具体的な域内原産比率はなにも提示しなかった。
3つの業界団体からの9月8日付の書簡では、米国、カナダ、メキシコの貿易担当大臣に対して、「自動車完成品の最終合意をすべて反映する、自動車部品の原産地規則」を要求するよう促しているが、そのことは、原産地規則が自動車と部品の双方に適用されるならば、50%以下の数字でも書簡の署名者は受け入れ可能との道を開いていることを表している。   

部品メーカーは、日本、米国、メキシコ、カナダの交渉官が自動車の原産地規則に関する相違を縮めようと、今週ワシントンで共同会合を開催する時に合わせて圧力を強化した。同じ時期に、米国の上院財務委員会の3人の議員が、TPPの原産地規則を北米自由貿易協定で定められている62.5%と少なくとも同等にすることを要求た。
TPPにおける自動車問題の日本側の首席交渉官である森 健良は、水曜日(9月9日)午後に米国通商代表部次席代表代行ウェンディ―・カトラーとの会談を始めた。ワシントンには金曜日まで滞在する予定である。

カナダとメキシコの交渉官も木曜日と金曜日に協議に加わるだろうと、関係者は述べた。カナダの代表団はTPPの首席交渉官カーステン・ヒルマンが率いると、カナダ政府の広報官は話した。

他の交渉課題と同様に、カナダ政府の目標はカナダの製造業者が競争力を維持できる結果を確保することであると、その広報官は語った。
9月8日付けの書簡で初めて、米国、カナダ、メキシコの自動車部品製造業者は米日間の自動車の原産地規則の取決めに反対を明らかにした。しかし、カナダ自動車部品製造業者協会(APMA)とメキシコ全国自動車部品産業(INA)は、NAFTAが必要条件とする「純費用方式」(net cost method)による自動車部品に対する50%の現地調達比率を求める共同書簡を、8月20日に両政府に対し送付している。(純費用方式:取引価格から中間費用を除いた純費用から非原産材料価格を差し引き、純費用で割り算をした%)

しかしながら、MEMA、APMA、INAにより署名された9月8日付け書簡では、これら団体が求めているはっきりした数字を確認するには至らなかった。注目すべきは3団体が、50%の域内原産比率という自動車完成品の原産地規則を求めるNAFTA域内の自動車製造業者による提案を支持するということである。この点で、共同書簡は50%の域内原産比率というカナダとメキシコの自動車部品メーカーの断固たる要求とMEMAの柔軟な立場の双方に配慮しているように思える。

9月10日のインタビューで、MEMAの政府問題担当上級副代表アン・ウィルソンは、自分たちの団体がカナダやメキシコの同業者と特に同じような立場をとっているものではないことを認め、交渉の最終段階で重要なことは、現在協議されている内容が「過去の歴史(past history)」に反していると述べることであると語った。

彼女はまた、MEMAは自動車の完成品に対して域内原産比率の最低基準とはどうあるべきかという問題に明確な立場を示さないだろう、と語った。MEMAの柔軟な立場は注目すべきことであるが、その理由は、既に米国自動車メーカーは米日間で合意された自動車完成品の45%域内原産比率を受け入れるつもりであると示唆しているからである。
MEMAからの書簡は、自動車部品製造業者は74万人の直接雇用を伴う米国で最大の製造業部門を構成していることを強調したものである。「強力な原産地規則は、すべての自動車製造業者に十分な供給基盤を提供し、同時に部品製造業者にとっては国内外における成長機会を守ることになるだろう」、とハンシュは書いている。

そして、弱い原産地規則は特に小規模な自動車部品製造業者への痛手になるだろうと主張している。規模の小さなMEMAメンバーはメキシコに工場を持ち、ある程度の生産能力を他のTPPの国々に拡大していると伝えられているが、それでも米国内での事業における日本との競争の可能性に不安を覚えている、と書簡で述べている。

「それゆえ、米国通商代表部は警戒を怠らず、部品製造業者が国内及びTPP各国において生産能力を築き、維持する機会を提供しなければならない。原産地規則は、米国における部品製造業者に損失を及ぼすために使われてはならない」と、ハンシュは書いている。
自動車部品の原産地規則が低い水準であれば、北米やTPP域内の他の場所で事業展開をしている米国の製造業者に対してではなく、現在TPPの域外で事業展開しているかもしれない日本の部品製造業者に成長の機会を与えることになり、競争条件を悪化させることになるだろう、とウィルソンは警告した。(翻訳:田中 久雄/監修:廣内 かおり)

2015年9月12日土曜日

地理的表示に関するTPPの暫定合意 交渉済み協定を例外措置に

 地理的表示はEU諸国が有名ですが、日本でも昨年6月に地理的表示法(特定農産物等の名称の保護に関する法律)制定、本年5月に施行規則が策定されました。農水省も日本の農産物のブランドを守り育てるためにその推進に力を入れています。同時に農業の競争力を強化し持続させる上でもその普及を図ろうとしています。

 本件についての日本の報道はほぼ見られません。知的財産権としての地理的表示の問題は、左記のマウイでの閣僚会合で大筋合意がされています。ここでもEUとのEPA交渉で重要な課題になっているにも関わらず、日本は対EUの戦略との整合性をどこまで確保すべく主張を展開しているのかどうかが問われている筈ですが、あまりその辺りが聞こえてきません。
 Inside US Tradeが8月20日付で掲載しているものを「市民アクション」翻訳チームが翻訳しました。(2015年9月9日)(翻訳:池上 明/監修:廣内 かおり)

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地理的表示に関するTPPの暫定合意、交渉済みまたは発効済みの貿易協定を例外措置に
2015年8月20日付けInside US Trade Daily News

環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加国は、地理的表示(GI)の規定に関して先月、暫定合意に達した。消息筋によると、新しく地理的表示を保護しようとするTPP参加国は国内協議の手順を踏むまなければならないが、すでに発効済みまたは交渉済みの国際協定の下で保護されている地理的表示はその要件を免除される。

この暫定合意は、先月のマウイ閣僚会議で合意された。まだ条文のかたちにはなっていないが、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドにとって部分的な勝利だったと伝えられている。これらの国々は、地理的表示として、チーズやその他食品の名称を保護できるよう世界中の国々を巻き込んでいるEUの圧力に、TPPを通じて対抗しようとしてきた。

しかし、その勝利はあくまでも部分的でしかなかった。国によっては、すでに発効済みまたは交渉済みのEUとの自由貿易協定の下で保護されている地理的表示について、国内協議の要件を免除されることを確保できたからだ、と消息筋は述べている。

この免除措置の恩恵を受けるのはメキシコ、チリ、カナダとベトナムだろう。すでにEUとのFTAを発効済みであるか交渉済みだからだ。しかし日本とマレーシアはまだEUとの自由貿易を交渉中なので含まれない。

この国内協議の要件として、TPP参加国は地理的表示保護の適用を承認するための、明確でひらかれた手続き方法を提示することが求められる。そしてこの手続きには、利害関係のある人・政府が地理的表示保護指定に異議を申し立てる機会を与えることが含まれる。

また、ほかにも、結果的に部分的な勝利だったと考えられる側面がある。消息筋によれば、アメリカは2つの点で、以前に求めたものに比べ効力の弱い地理的表示規制に同意することになるという。

第1に、アメリカが求めていたのは、地理的表示保護の適用に異議申し立てができる国内協議の手続きを提供する義務に加えて、利害関係者が登録済みの地理的表示の取り消しを請求できるという手続きだった。

しかし、マウイでの暫定合意は、主に取り消しよりも異議申し立てを念頭においていると関係者は述べている。さらに、アメリカはまだ正式に取り消し手続きの案を取り下げてはいないが、最終的にはそうなる見込みが高いとも語った。

アメリカが妥協したと見られる第2の点は、地理的表示保護の適用を拒否するかまたは既存の地理的表示を取り消す具体的な根拠をTPPの条文のなかで記しておくべきだ、というアメリカの要求だ。

TPPの各参加国は、地理的表示承認時の国内協議の手続きを独自に整備できることになるだろうと、消息筋は述べた。同様に二人の米国業界筋も、異議申し立てと取り消しの根拠にかかる事項についてはアメリカが譲歩すると見ていることを示唆した。その一人によれば、アメリカの交渉担当者は、その主張を維持できないと数ヵ月前に明言していた。

これだけ明らかに妥協しているにもかかわらず、アメリカ産業界を代表する人々は、食品の一般名称と考えられる用語を使用し続けることを望む、生産者の権利を保護する方向へ確実に前進したとして、マウイの交渉結果を支持している模様だ。

同様に消息筋の一人は、アメリカはどの国が考えているよりも、TPPでは地理的表示について多くを得たと述べた。

マウイでの地理的表示に関する暫定合意は、7月30日(会議最終日の前日)の夜、閣僚がこの問題を検討したあとに出てきた。その時の消息筋によれば、閣僚たちが問題解決の方向性を交渉担当者に示し、夜遅くなって合意が成立したとのことだ。

TPP参加国は、他の国際協定の下で保護されている地理的表示をこの新しい規則から除外するかどうかについて、そしてその範囲について長く争ってきた。貿易担当大臣は2014年10月のシドニー閣僚会合でこの問題を検討したが、解決できなかった。

漏えいされた5月11日時点での知的所有権の章によれば、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドと、その3ヶ国の要求に反対していた日本、ベトナム、マレーシア、カナダ、メキシコ、チリとの間で、国際合意の下で保護されている地理的表示がどのように扱われなければならないかという点について、まだかなりの意見の相違があったことがうかがえる。

ノレッジ・エコロジー・インターナショナルによって漏えいされた草案によると、その時点での未解決事項の1つは、どの国際協定が国内協議要件を免除されるのかあるいはされないのかを決定する「線引きの期日」の問題であり、3つの選択肢が提示されていた。
*注:ノレッジ・エコロジ-KEI
   人類にとってより効率的で公平な知的資源の管理のあり方を研究しているNGO。

1番目の選択肢は、2013年12月31日以前に妥結したか大筋で合意した協定を免除するもので、アメリカが支持し、日本、ベトナム、マレーシア、メキシコ、チリが反対していた。

2番目は、TPP発効以前に妥結あるいは合意された協定を免除するものだ。消息筋が述べているように、マウイでの交渉結果はこれに則しているようにみえる。3番目は、TPP発効の3年後までに妥結する協定にまで、措置を拡大するものだ。

最初の選択肢では、2013年10月に大筋合意が発表されたカナダ-EU間の自由貿易協定CETAが含まれるが、8月4日に決着したベトナム-EU間の貿易協定は含まれない。

CETAの下では、カナダは145のEUの地理的表示を保護することに合意した。この中には、アメリカの酪農業界が一般名称だと主張して論争の的になっているチーズの名称も複数含まれている。EUとカナダは2013年10月に大筋合意を宣言したが、ほぼ2年後の今もまだ正式に交渉は妥結していない。

欧州委員会の8月4日の記録によれば、EUとの協定においてベトナムはパルミジャーノ・レッジャーノやロックフォールなどのチーズを含む食品・飲料で、169のEUの地理的表示を認めることに同意した。しかしそのリストはまだ公表されていない。チリとメキシコはEUとの貿易協定で、ワインと蒸留酒に関する特定のEUの地理的表示を保護することに同意した。協定はすでに発効しているが、消息筋によれば、これらの合意は、別の地理的表示が後日加えられることを認めている。

マウイで作成された暫定合意の中では、参加国で地理的表示が新たに加えられる場合もTPPの下で要求される国内協議手続きの対象になる、と消息筋は語った。

また漏えい草案によれば、地理的表示への異議申し立てまたは取り消しの具体的な根拠について意見の相違があることも明らかだ。 条文QQ.D.3には、TPP参加国が地理的表示の適用を拒否できる3つの根拠が明記されている。最初の2つはベトナムが反対しており、既存の商標または地理的表示との混同を引き起こす可能性がある場合に、地理的表示の適用は拒否され得ると唱っている。第3の根拠は、地理的表示が「その加盟国の領域において、関連商品の通称として、その国で広く使われている言葉で慣習的な」用語である場合だ。こうした文言は、ワイン類への適用に関する注書きを除いて、大方合意されているようだ。


*注:地理的表示とは
「ある商品に関し、その確立した品質、社会的評価その他の特性が当該商品の地理的原産地に主として帰せられる場合において、当該商品が加盟国の領域又はその領域内の地域若しくは地方を原産地とするものであることを特定する表示をいう」と規定されており、欧州各国は全般に地理的表示の保護に積極的であるが、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどの歴史の新しい国々は、ヨーロッパに比して、歴史的に伝統ある地名を由来とするブランド品を持たないために、消極的である。
(翻訳:池上 明/監修:廣内 かおり)

カナダ、メキシコの自動車部品メーカーがTPPからの離脱を警告

 カナダの新聞が報じたカナダとメキシコの業界による、日米自動車協議に対する強い抗議と批判の声を翻訳チームで翻訳しました。この記事に続いてインサイド・ユーエス・トレード紙やポリティコが更に詳しい記事で、この問題提起に関して“原産地規則の算出方法などを含む批判の声を掲載しました。
 TPP交渉を書簡する甘利 明経済・財政再生相が乳製品とニュージーランドが大筋合意先送りの主因だとしているのは、奇妙にも日本の自動車業界にとって不利益となることを批判しないのは不思議です。まるで、日米の身勝手な、そして稚拙な交渉主導が起こした対立を目立たないようにしているとのではないかとさえ思われてしまいます。(翻訳: 戸田 光子/監修:廣内 かおり)


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カナダ、メキシコの自動車部品メーカーがTPPからの離脱を警告
(オタワーグローブ・アンド・メイル紙/2015年8月23日(日)付け→8月24日(月)最終更新)

 合計で100万人近くの労働者を雇用するカナダとメキシコの自動車部品メーカーは、当該分野にとってのよりよい条件がないままTPPが決着されれば、製造業の雇用に悲惨な結果をもたらす、と警告している。
 彼らは、日本政府が環太平洋の貿易協定をつくるための協議で模索している譲歩案について心配しているのだ。その譲歩案は、日本の自動車メーカーがTPP非参加国からかなりの部品を調達して、自動車と自動車部品を北米に無税で輸出することを許すことになるものだ。
 カナダのエド・ファスト貿易相とメキシコのイルデフォンソ・グアハルド・ビジャレアル経済相に宛てた8月20日付けの書簡の中で、自動車部品メーカーはカナダとメキシコの政府がよりよい取決めを結べないならば、この分野は深刻な損害を被るだろうとの懸念を述べている。
「この条項が施行されれば、我々の企業と労働者は北米市場において競争力で不利な立場に置かれるだろう。我々の北米地域における事業に深刻な損害を与え、我々は事業を著しく縮小することを余儀なくされる可能性がある」と、カナダ自動車部品製造業協会(APMA)のフラビオ・ヴォルプ会長とメキシコの全国自動車部品製造業協会(Mexico’s Industria Nacional de Autopartes)のオスカル・アルディン執行副会長は書いている。
 チリから日本まで広がる12カ国間の環太平洋交渉を先導している米国は、NAFTAの相手国であるカナダとメキシコに相談を持ち掛ける前に、暫定的に日本の要求に同意した。
 カナダとメキシコの政府は、先月ハワイで行われたTPP交渉のマウイ会合の時にこのことを知ったのであり、このことが、米国政府が望んだように協定を妥結させる上で、大きな障害となることが明らかになった。
 カナダ、メキシコそして米国の交渉官は、行き詰まりを打開するためつい先週(8月20日)も協議をしている。伝えられるところによれば米国は、米国における国内自動車販売台数がTPP違反のために落ち込むことがあれば、その時には、米国政府が日本車に対して関税を復活させることができるように、米国自身のための緊急措置を交渉している、とのことである。 
 カナダの高官は、TPPの自動車協議で自分たちにとって最大の問題の1つは、このことに関する米国と日本の政府間の暫定合意によって、輸入される部品及び車両により低いTPP域内部品調達率を許容するという、一連の適用除外が取り決められたことだと言う。
 現在NAFTAの規定では、1台の自動車の62.5%がカナダ、米国あるいはメキシコに由来するのであれば、その3カ国へ課税なしに輸出することができる、と決められている。
 カナダとメキシコの自動車分野の高官が求める最低限のTPPの部品調達規定は、消息筋によれば、交渉が行き詰まる前に日本と米国が暫定的に合意したという、部品では30%、軽量自動車(訳注:普通乗用車、バン、スポーツ用多目的車(SUV)などに相当する)では45%より高いというものである。日本の自動車メーカーは、原材料や部品をタイなどTPP交渉に参加していない国々のサプライ・チェーンから得られるようにしたいのだ。
 ヴォルプ氏とアルディン氏は、自分たちの業界は過去20年以上にわたりカナダとメキシコに相当な投資をしてきたと言う。このことが「雇用、経済生産高、そして今日NAFTA 3カ国市場の全貿易の20%を占める産業を通して、カナダ、米国そしてメキシコの経済に利益をもたらす、活力ある自動車サプライ・チェーンを構築してきた。」と言う。
 書簡ではカナダとメキシコ政府に対し、域内部品調達比率が50%以下の物品がTPP諸国から無関税で入ることを許すような、自動車部品の輸入に対する規定で決着することのないよう求めている。
「我々は自由市場を信奉しているが、公正で競争的な環境を強く求める」と、両協会の会長らは書いている。
「TPP交渉が最終段階に向かって進んでいることもあり、北米3カ国の市場に活力ある製造業を求めるこの目標を達成するため、これから数週間くらいのあいだに、皆さんと協議する機会があることを期待している。」
 ファスト貿易相の広報官は、カナダの自動車部品メーカーという、国の経済の重要部門から出された懸念にコメントすることを拒否した。
広報官のリック・ロス氏は、カナダ政府は利害関係者の話に耳を傾けている、と述べるだけだ。
「何度も繰り返してきたように、我々はメディアを通してこの協定を交渉しようとは思わない」とロス氏は語った。
「我々の目標は常に、我が国の全地域にわたって、我が国経済の全分野に利益をもたらす野心的な成果を確実に手に入れることだ。我々はその目的を追求し続けていきたいと思っている」とファスト貿易相の広報官は語った
「首相はカナダ国民の利益を最優先にする協定にしか署名はしない。」
 環太平洋連携協定には、合計で世界の経済生産高の40%を占める国々が含まれるが、その協定を世に送り出すための交渉は、7月末にハワイで合意に至ることができなかった。
 今月初めに、オーストラリアのアンドリュー・ロッブ貿易・投資相は、残る2つの大きな障害は自動車と乳製品の輸入に関してカナダ、米国、日本そしてメキシコの間で合意がなされていないことだと述べ、これら4カ国が意見の相違を解消することができれば、その時は「2,3日の協議でこれを完結させることができると思う」と語った。
(翻訳:戸田 光子/監修:廣内 かおり)

【関連記事】
■首藤信彦氏が分析を掲載(「TPP違憲訴訟の会」サイト)
http://tpphantai.com/info/20150901-problem-of-auto-rules-and-future-tpp-negotiations/

■(本記事の原文)
http://www.theglobeandmail.com/report-on-business/international-business/canadian-mexican-auto-parts-makers-warn-of-fallout-from-tpp-trade-pact/article26067376/

2015年8月9日日曜日

TPP閣僚会合報告(7月28〜31日)


マウイ島で開催されたTPP交渉閣僚会合に市民アクションの構成団体が参加しました。その訪問団の一つ「TPPに反対する人々の運動」の近藤康男さんからの詳細な報告です。閣僚会議終了直後、大筋合意取り付けに失敗した今回のハワイ会合の仕切り直し会合を8月末にも開催することが伝えられましたが、それも延期され、いつ開催できるかも明らかになっていません。いったい今回の閣僚会合の意味は何だったのか、これからの見通しはなどについても、近藤報告は触れていますので、ご一読ください。

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TPP閣僚会合報告
2015年7月28日(火)~31日(金) 米国ハワイ州マウイ島ウエスティンホテルにて開催

1.概要

〇ハワイでは大筋合意がまたもや先送りされ、次回会合をASEANに合わせてシンガポ-ルで8月日説が取り沙汰されているが、直近の報道では月内開催困難との見方も強くなっている。
現時点でルールについては25分野がほぼ決着、国有企業・原産地規則・法的制度的事項の3分野は近々決着、知財が次回までの最大の課題であり、これに物品市場アクセスが加わるといわれている。
〇5月に一旦予定されたものを延期し、最後の閣僚会合とする位置付けで、大筋合意を目指して開催された。
〇このため、実務的な問題をほぼ決着させ、難航分野における選択肢を閣僚の政治判断に委ねるべく、24~27日まで首席交渉官会合が先行して実施された。
首席交渉官会合では投資、国有企業、原産地規則など多くの分野で前進がみられたとのことである。
 
〇閣僚会合では生物製剤のデ-タ独占期間と地理的表示を残した知的財産権、2国間を中心とする物品市場アクセスが主に議論された。首席交渉官会合・閣僚会合の期間中精力的に2国間協議が並行して進められた。

〇しかし、最終日、13時半から予定されていた共同記者会見は、直前に4時に延期、ギリギリまで詰めの作業をしていたせいか、閣僚は会場に遅れて到着し、開始早々大筋合意の先送りが発表されることとなった。共同声明の配布も会場では無かったとのこと。
 読み上げられた内容も大詰めと言うよりは、TPPの意義を強調するキック・オフ大会のような内容だった。(以下はUSTR掲載英文共同声明と内閣府掲載日本語版へのリンク
https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases/2015/july/joint-statement-tpp-ministers 
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/08/150731_tpp_hawaii-statement.pdf 

①日米2国間協議先行型の協議故か、大詰めに来て乳製品・甘味資源など日・米・加・豪・NZなど複数の国の関わる物品市場アクセスでのNZの高水準の自由化への拘り、同様にNAFTAとマキラド-ラの枠組みで自動車生産大国となったメキシコにとっての原産地規則問題の重要性などを調整出来なかったこと、②途上国・豪・NZ対米国などとの知財分野での協議が思うほどに進まなかったこと、③それ故に結局各国とも最終カードを切るところまで踏み切れなかったことが原因とみられている。
〇米国議会・大統領選に関連した時間的制約、日本の参院選への影響などを睨み、8月中に再度閣僚会合開催を目指すとしたが、米国も時期を断言するまでには行かず、各国の報道でも楽観的論調は太宗を占めてはいないようだ。その中で日本の安倍首相の叱咤激励と甘利TPP担当相の「もう一回やれば必ず合意できる。各国ともその点の意思は共有できている」との発言が目立っている。
 会合終了後の報道では、NZグロ-サ-貿易相は「“2級”の合意はしない」と表明し、米国アーネスト大統領報道官も「基準に届かない合意には署名しない。米経済の最大の利益となる合意を追求するためなら遅れもいとわない」とオバマ大統領の意向を伝えている。
〇米国を始め政治的詰めの甘さが目立ち、交渉参加国に受け入れ難い内容を含むTPA(及び関連法案)とTPPとの間の矛盾が露呈した会合と言えよう。もしかしたら環太平洋における流動的な地政学的現実の中で、グロ-バル企業の利益・権能の最大化に収斂するTPPそのものが持つ限界なのかも知れない? 

〇各国ともこれが最後かということで農業団体、医薬品業界など、特に日本からはメディアを含め大勢が現地入りした。自民党・農業団体・経済団体は最終日に報告会を開催したが、異常なほどの自民党ペ-スの中、「サァ次は何としてでも大筋合意、そしてその後のTPP対策の政策・財政措置を!」の大合唱で閉会した。 

〇自民党からは、森山裕、西川公也、宮腰光寛、吉川貴盛、小野寺五典の各議員、民主党からは徳永エリ議員及び玉木雄一郎議員が現地入りした。

〇市民団体は、パブリック・シチズン(米国)、第3世界ネットワ-ク(スイス)、公衆衛生協会(豪州)、シェラ・クラブ(米国)、国境なき医師団(米国)、日本からは「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」(3名)・「TPPに反対する人々の運動」、「アジア太平洋資料センタ-」・「農民連」・「TPPって何?」が参加し、各国市民団体と3日間の記者会見を実施、29日の地元団体の抗議活動に参加した。

2.経過など 
プログラム
1)市民団体を中心に:プログラムは別紙に
〇初日を概要説明・問題提起とし、29日・30日で説明

〇閣僚交渉の予定が流動的で報道関係者はフォロ-に追われたこともあり、過去の会合の時と比べメディアの出席が少なかったのが残念だった。

①7月28日(火)10時半:マウイ島閣僚会合で何が問題となっているのか
〇山田正彦氏(元農水大臣、「違憲訴訟の会」言語団共同代表) 
 農産物、通貨条項、米国議会“承認手続き”、暮らしの中に広がる反対運動と安倍政権批判、などについて報告し、違憲訴訟についても言及
〇デボラ・グリ-ソン氏(豪州・ラトロ-プ大教授、公衆衛生協会)
 知財、特に医薬品や公的保健制度への影響
〇マ-ティ-・タウンセンド氏(米国シエラ・クラブハワイ代表)
 環境問題とTPPについて
〇ピ-タ-・メイバードック氏(米国パブリック・シチズン)
 知財、特に医薬品の問題から

②7月29日(水)10時半:TPP交渉の憲法との対立、東京地裁への提訴
〇山田正彦氏、三雲崇正氏(違憲訴訟弁護団、新宿区議会議員)

③7月29日午後:地元団体による抗議行動、記者会見、一斉にホラ貝を吹く人数のギネス記録への挑戦など。

④7月30日(木)10時半:TPPの及ぼす医薬品、保健制度への影響
〇ジュディット・ルイス・サンファン氏(米国・国境なき医師団)
〇デボラ・グリ-ソン氏(豪州・ラトロ-プ大教授、公衆衛生協会)
〇ピ-タ-・メイバードック氏(米国パブリック・シチズン)

2)内閣府政府説明会:7月29日15時~15時半!!(資料省略)
〇最も重要な段階での説明会が、たったの30分で、かつ今までに比べて最も内容の乏しいモノとなった。

①内閣府・渋谷審議官説明
〇物品市場アクセスと、ル-ルの難航分野である知財における医薬品のデ-タ保護期間問題を中心に協議をしているが、まとまるかどうか何とも言えない。医薬品デ-タ保護期間について、米国医薬品業界は開発投資の回収期間としての12年、後発医薬品中心の国は早期の普及と安価な医薬品に基本をおいて5年以下、日本は安全性審査のための期間として8年を考えているが、各国とも隔たりが大きい。物品市場アクセスではカナダが前向きな姿勢で交渉に出てきている。全体会合・2国間協議・事務レベル協議など並行的に進めている。
〇甘利大臣も28日午前中に豪州ロブ大臣、NZグロ-サ-大臣、午後は米国フロ-マン代表と協議の後、全体会合。全体会合では「この会合で合意する意志の共有」を強調。29日はベトナム、マレ-シア、シンガポ-ルと2国間協議をした。
〇各国閣僚ともまだ最後のカ-ドを切るところまで到達していない。31日13時半からの共同記者会見を予定している。

②質疑(質問のポイントのみ)
〇29日9時のウィキリ-クスの国有企業指針に関連して、国が関わっている農畜産関連団体、そこを通じた価格安定諸制度が影響・制約あるいはISDSに晒される懸念があること、そのことの深刻な日本農業への影響をどう考えるのか?
〇知的財産権の過剰な保護は医薬品以外でも文化的・社会的には後退とも言える。大筋合意としてまとめてもその後に未だ多くの課題を残すと考えられる。大筋合意あるいは最終合意とは具体的にどのような内容を指すのか?
〇大事な会合であり、29日の30分の説明会だけでは問題だ。後半で再度やるべきだ。国会決議を常に忘れずに交渉していると言うが、何を持って“守った”と考えているか?関税で妥協する代わりに対策を講じて再生産可能にするということではなく、関税で守った上で、その上で持続的な農業生産を発展させるべく政策を講じるということが、国会決議の正しい読み方ではないのか?
〇署名後の各国の発効手順、TPPの発効基準はどうなるのか?今回大筋合意に到達する場合はもう一度説明会を開いてその後の展開を説明して欲しい。

③渋谷審議官からの質問への回答
〇畜産。農業団体とは別途コミュニケ-ションを取っている。国会で承認いただける内容とすべく交渉をしている。
〇国有企業への優遇措置は、内外無差別であれば現在の制度・政策は何ら問題にはならない。また、その限りではISDSの対象とはならない。
〇医薬品関係についてのスタンスは、難病患者を救う開発の道を閉ざさない、途上国と先進国との格差・対立を作らない、安全性を損なわないなど“バランス“を基本に臨んでいる。著作権に関わる懸念も充分伺っている。
〇今回大筋合意になっても、実務レベルで残って詰める課題が多いはず。その意味で大筋合意。最終合意は確定条文に署名すること。
〇未だ議論になってないが米国の“承認手続き”のようなことにはならないのではないか?
〇仮に今回合意出来たら、メディア向けの詳しい説明をする。皆さんにも何らかの形で加わってもらうつもりだ。
〇「発効規定」は未だ整理されていない。

3)自民党議員団。業界団体報告会:7月31日夕刻{共同記者会見・甘利大臣記者会見後リッツ・カ-ルトンHにて} 
〇「国会決議遵守」を訴えた声もあったが、全体の雰囲気は、与党としての自民党と共に「大筋合意を前進させよう」「その後はしかりした財政措置を」の大合唱との印象。
〇配布資料(省略):自民党議員団「閣僚会合終了に当たっての声明」、経済同友会「TPP閣僚会合の閉幕に際して」、閣僚共同声明(英文・和文)

①政府・自民党出席者
〇森山 裕、西川公也、宮腰光寛、吉川貴盛議員ほか(発言者以外は出席未確認
一応よかった。TPP対策に取り組む。時期を失してはいけない。交渉団に感謝。
〇甘利 明経財・再生相、鶴岡公二首席交渉官ほか

②業界などからの出席
〇経済団体代表、農畜産団体代表、地方自治体関係者、その他業界団体代表など

③会場からの声
〇報告会実施に感謝。交渉団の尽力に感謝。国会決議・国益を意識した交渉と理解。
〇現地での個別説明や意見聴取の実施には特に感謝
〇安易な妥協を排して国会決議遵守を願う。
〇農協改革に取り組む。若い農家が希望を持って経営できることを期待する。地域の声も届いたと思う。

(4)閣僚共同記者会見(別室モニタ-から主要な回答部分のみを抜粋)
〇米国フロ-マン代表:全てが決着しないと何も決着出来ない。難航分野で実質的前進。
〇NZグロ-サ-大臣:乳製品は食べ物の中で常に最後に残される。意味のある帰結が大事だが、まだそれが何かは充分明らかではない。
〇豪州ロブ大臣:砂糖と乳製品でトレ-ドオフという捉え方はしていない。合意するということは双方に総体としてメリットがあるということだ。その意味では前進している。12ヶ国・世界のGDPの40%を占めるTPPで合意が出来ればビジネスのコスト・時間の大きな節約になる。
〇米国フロ-マン代表:(次回会合について)我々も実務者も継続的に協議を続ける。そして残る問題の解決に集中する。
〇日本・甘利大臣:(北米圏での日本の自動車の位置付けについて)TPPという経済圏でのバリュ-チェーンを作ることだ。それに向かって大きな前進が見られた。もう一回やれば全て決着するだろう。
〇米国フロ-マン代表:甘利大臣のおっしゃる通りだ。目標はこの地域での成長を実現し、雇用を増やすことだ。TPPは開かれたもので、この高い基準を達成できる国は参加出来るし、(シンガポ-ルなどでTPPへの期待値が下がっているというが)そのような経済圏である故に参加を希望する国、モメンタムも出てくる。
〇日本・甘利大臣:TPPは21世紀型のルールを目指している点、成長する生きたEPAである点が今までの経済連携と異なっている。WTOが頓挫しているだけに新たな世界標準になり得る。
〇メキシコ:我が国は世界で7位の自動車産業の国。重要であるだけに交渉でも拘っているのは確かだ。しかし交渉全体は前進し、いいところまで来ていると思う。 
〇カナダ:我々はTPPを妥結させるために来た。近く再開した時にも、この交渉を完了させる気持ちで臨む。
〇NZグローサ-大臣:NZが障害となっているという見方は受け入れ難い。NZはTPPの当初からのメンバ-で、小さな国だが乳製品は世界でも最大の輸出国で大切なものだ。我々は原則関税撤廃を目指しているがこれまで妥協も譲歩もしてきた。そして誠意を持って交渉している。

(5)甘利大臣記者会見(閣僚共同記者会見後。別室モニタ-から主要な回答部分のみ抜粋) 
以下は内閣府サイト掲載の記者会見概要URL⇒ 
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/08/150731_daijin_kaiken2.pdf 

〇ハワイでは多くの分野で合意が出来、難航分野も大きく前進した。ただ一部の国の間での物品市場アクセス、知財の一部で各国の利害対立が残り、合意には至らなかった。しかしもう一回やれば決着できると思っている。
〇時期を決めた方が段取りも決意も集中出来ると思うが、議長が慎重な判断をした。8月末にやろうという認識は共有されていると思う。
〇(臨時国会で審議を、と言った経過はあるが)次回で大筋合意が出来て、それからどの程度速く進められるか、米国での手順もあり、どの国会でやるかは政府が決めることになる。
〇(物品市場アクセス決着の道筋について)一部の国々の物品市場アクセスが進んでいないが、関係する国々がそれぞれ自覚を持つということだろう。
〇(交渉の進め方がよくなかったかどうか)最後になるとどうしても、少しでも自国の利害を確保する動きは出てくる。
〇(各国が最終の手の内を見せたかどうか)決着させようと言う気持ちで臨んだという感じは各国ともあった。
〇知財の周辺部分はかなり整理がついたが、中核的なところは、互いに超えられないところがあったようだ。次回にこれだけが残って全体を駄目にするということにはならないのではないか?
〇次回にまとまらないとなかなか日程的には厳しくなる。米国も手順など一定の判断・工夫をしてくるのではないか?

3.私的感想
(1)狭い意味での政治としては、オバマ大統領の政治基盤の脆弱さがTPAとTPPとの矛盾を交渉の場に持ち込み、加えて大統領・USTRの稚拙な政治的詰めが交渉合意に至らなかった大きな要因ではないか? 
〇TPAに縛られ米国は柔軟な妥協・譲歩が出来ない、各国にとってはTPAと関連法案は受け入れがたい内容を含んでいる。
〇米国政治の事情で論理的には不可能な日程と手順でTPP交渉が進められている。
 
(2)大きな政治的流れとの関連では、アジアの成長を取り込み、同時に、中国に対峙する枠組みを主導したいという日米の思惑が色濃いTPPは、好ましい新たな秩序を目指す上では、既に時代遅れではないのか? 
〇環太平洋における多様な発展と複雑な地政学的現実に対応出来ないばかりか、他の地域連携の枠組みとの利益相反が避けられないし、地域の不安定要因になりかねない。
〇グロ-バル企業の利益と権能の肥大化に収斂する協定は、政治的にも適正な制御を難しくする。
(3)日本の交渉力への疑問?
〇いくつかの国は譲れない一線をこれまでも明確にして交渉に臨んでいる。一方日本は譲歩の検討が先行しがちである。 

〇米国は、ウィキリ-クスの漏えいした業界とUSTRの親密なメ-ルから読み取れるように、業界は要求をぶつけ、知恵を提供し、時にはUSTRを前から引っ張り、あるいは、後ろから押して、一体となった交渉をしている。

 〇日本では交渉官は市民と没交渉、業界は政府・与党の土俵に上がってお願いをするだけで(経団連などは多少違うのかも知れないが)、総力戦になっていない。

 TPPはやはり、ジェイン・ケルシ-氏がいみじくも言った「異常な契約」のようだ。あるべき経済連携のあり方をあらためて考える時期に来ているのかもしれない。

※参考:8月末実質合意、11月半ばに妥結・署名とした場合の手順・想定される流れ
但し、TPA法案修正・成立前の内容を基に作成したものだが、手順については変わっていないと推測する。

8月末
閣僚会合で合意⇒条文作成・法的チェックの作業。TPAに基づき米議会に協定締結の意向を伝達(署名90日前に)
9月下旬
TPAにより妥結=署名60日前までに条文をUSTRのサイトに掲載

妥結=署名30日前までに成文の写しと必要な行政措置を議会に提供
11月下旬
APEC首脳会議に並行してTPPに署名⇒各国は国内手続きに。日本では臨時国会で審議。
年内
米国では署名後105日以内に国際貿易委員会の評価報告、実施法案を議会に提出⇒ここから審議が始まる。(評価作業は署名前にも開始か?)
審議は下院で60日以内、上院では+30日以内、両院で20時間以内
2016
1/2月~3月米大統領選予備選本格化(ス-パ-チュ-ズデイ)⇒71821日共和党大会、7月下旬民主党大会で大統領候補選出⇒118日投開票

(2015年8月5日(水)TPPに反対する人々の運動・近藤

2015年8月2日日曜日

「大筋合意には至らなかった」TPP閣僚会合で市民訪問団より現地レポート

「大筋合意」が見送られたTPP閣僚会合で、現地入りしている市民訪問団より、速報が入ってきました。 以下は現地の活動報告と印象の報告となります(現地時間7月31日夜)。

【7月28〜30日】
1,市民団体が記者会見を開催
・日本、豪州、米国で開催。日本の「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」より、山田正彦幹事長と三雲崇正弁護士が「違憲訴訟とTPPの影響」を話す。
・日本からの市民訪問団が通訳、司会、ビラ撒きなどを行う。

2,地元団体の抗議行動に参加
・閣僚会合前の砂浜で7月29日、地元団体の抗議行動に参加する。
・山田正彦氏がスピーチ。

3,政府説明会
・日本政府が30日、説明会を開催する。
・「もっとも重要な時期にもかかわらず、これまでの説明会の中で最も短時間で全く『無内容』なものでした」と訪問団よりコメント。

4,共同記者会見&報告会(主催:自民党議員団と業界団体)
・「正体見えたり!」の現実があらわれる。
・31日午後4時からの共同記者会見と日本の“自民党議員団、業界団体主催”の報告会が開催される。

1)共同記者会見
・印刷された閣僚共同声明は、その場では新聞記者にも配布されなかった。
・後でUSTRのウェッブサイトには掲載された。
・日本語訳は夕方の日本人向け記者会見と業界団体向け報告で配布された。
・「これは今までなかった異常な対応です」と市民訪問団より。
・部屋外のモニターでメデイア以外の市民訪問団も様子を見て聞くことが出来た。
・閣僚は国名を明かさないまま。しかし実際はその国か分かるように触れられたため、その国の閣僚の苦虫をかみつぶしたような顔とが印象的。みな疲れた顔。

2)記者会見の内容
・「大筋合意には至らなかった」と明言した。
・その上で、米国議会や日本の秋の国会日程も考え、「8月中にもう一度閣僚会合を開催して合意に持って行く」とも明言した。
・ルールの大半は着地点が見えた。問題は知財、特に生物製剤のデータ保護期間と物品の市場アクセスだった。
・一口で言うと、TPP交渉の大詰めで話す内容ではなく、「TPP交渉を始める“キックオフ”のような内容に終始しました」と市民訪問団。

3)あきれた業界向けの説明会
・これでは米国との交渉に勝てる訳がないと思えるような内容。
・米国の業界は、最大限の要求を突き付け、政府を後ろから押し、前から引っ張っている。
・しかし、日本の業界(ビジネスグル―プの業界)は、まず自民党のセットした会合に喜んで参加し、すでにこれからは「大筋合意とその後の財政対策を期待」する流れに乗ってしまっている。
・JA全中と製糖業界が小さな声で「国益遵守」を言っただけで、全体の流れは、「大筋合意を前進させよう」「しかしその後は業界を支えるための財政対策だけはしっかりして欲しい」というものだった。

5,総体的に
・「分かり切ったことですが」との断りのあと、市民訪問団より以下のコメント。
・「すでにTPPは地域の経済の新たな方向を目指すものでもなく、覇権と個別利害がぶつかっている」。
・「大国のエゴと“小国のささやかな愚痴”の矛盾が浮かび上がるものだ」。
・「米国のTPA法案審議の過程と、特に最終段階のTPP交渉で誰の目にも明確に見える姿を晒してしまった」。
・「今こそそれに代わる、あるいは対峙する、“人々にとってのあるべき地域・国際関係”をこそ考え直し作ることが喫緊の課題になっていることを感じさせられました」。

以上

【メディア報道/参考記事】
TPP大筋合意至らず 米通商代表「交渉継続」(NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150801/k10010174851000.html
TPP閣僚声明 全文(NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150801/k10010175031000.html
■TPP、土壇場でNZの攻勢 「自由貿易」強気に主張(朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/ASH81547FH81ULFA00D.html
■NZ譲らずTPP合意見送り、打開へ日米加連携(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20150801-OYT1T50150.html?from=ycont_top_txt
■焦点:TPP漂流なら日米に痛手、8月末が合意ラストチャンス(ロイター)
http://jp.reuters.com/article/2015/08/01/tpp-analysis-idJPKCN0Q631L20150801
■TPP閣僚会合、大筋合意見送り-乳製品や自動車でなお溝(ブルームバーグ)
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NSE2IW6JTSE901.html 

【関連・参考写真】※現地の限られた撮影環境からの写真となっていることを承知ください
地元での抗議行動