2015年8月9日日曜日

TPP閣僚会合報告(7月28〜31日)


マウイ島で開催されたTPP交渉閣僚会合に市民アクションの構成団体が参加しました。その訪問団の一つ「TPPに反対する人々の運動」の近藤康男さんからの詳細な報告です。閣僚会議終了直後、大筋合意取り付けに失敗した今回のハワイ会合の仕切り直し会合を8月末にも開催することが伝えられましたが、それも延期され、いつ開催できるかも明らかになっていません。いったい今回の閣僚会合の意味は何だったのか、これからの見通しはなどについても、近藤報告は触れていますので、ご一読ください。

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TPP閣僚会合報告
2015年7月28日(火)~31日(金) 米国ハワイ州マウイ島ウエスティンホテルにて開催

1.概要

〇ハワイでは大筋合意がまたもや先送りされ、次回会合をASEANに合わせてシンガポ-ルで8月日説が取り沙汰されているが、直近の報道では月内開催困難との見方も強くなっている。
現時点でルールについては25分野がほぼ決着、国有企業・原産地規則・法的制度的事項の3分野は近々決着、知財が次回までの最大の課題であり、これに物品市場アクセスが加わるといわれている。
〇5月に一旦予定されたものを延期し、最後の閣僚会合とする位置付けで、大筋合意を目指して開催された。
〇このため、実務的な問題をほぼ決着させ、難航分野における選択肢を閣僚の政治判断に委ねるべく、24~27日まで首席交渉官会合が先行して実施された。
首席交渉官会合では投資、国有企業、原産地規則など多くの分野で前進がみられたとのことである。
 
〇閣僚会合では生物製剤のデ-タ独占期間と地理的表示を残した知的財産権、2国間を中心とする物品市場アクセスが主に議論された。首席交渉官会合・閣僚会合の期間中精力的に2国間協議が並行して進められた。

〇しかし、最終日、13時半から予定されていた共同記者会見は、直前に4時に延期、ギリギリまで詰めの作業をしていたせいか、閣僚は会場に遅れて到着し、開始早々大筋合意の先送りが発表されることとなった。共同声明の配布も会場では無かったとのこと。
 読み上げられた内容も大詰めと言うよりは、TPPの意義を強調するキック・オフ大会のような内容だった。(以下はUSTR掲載英文共同声明と内閣府掲載日本語版へのリンク
https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases/2015/july/joint-statement-tpp-ministers 
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/08/150731_tpp_hawaii-statement.pdf 

①日米2国間協議先行型の協議故か、大詰めに来て乳製品・甘味資源など日・米・加・豪・NZなど複数の国の関わる物品市場アクセスでのNZの高水準の自由化への拘り、同様にNAFTAとマキラド-ラの枠組みで自動車生産大国となったメキシコにとっての原産地規則問題の重要性などを調整出来なかったこと、②途上国・豪・NZ対米国などとの知財分野での協議が思うほどに進まなかったこと、③それ故に結局各国とも最終カードを切るところまで踏み切れなかったことが原因とみられている。
〇米国議会・大統領選に関連した時間的制約、日本の参院選への影響などを睨み、8月中に再度閣僚会合開催を目指すとしたが、米国も時期を断言するまでには行かず、各国の報道でも楽観的論調は太宗を占めてはいないようだ。その中で日本の安倍首相の叱咤激励と甘利TPP担当相の「もう一回やれば必ず合意できる。各国ともその点の意思は共有できている」との発言が目立っている。
 会合終了後の報道では、NZグロ-サ-貿易相は「“2級”の合意はしない」と表明し、米国アーネスト大統領報道官も「基準に届かない合意には署名しない。米経済の最大の利益となる合意を追求するためなら遅れもいとわない」とオバマ大統領の意向を伝えている。
〇米国を始め政治的詰めの甘さが目立ち、交渉参加国に受け入れ難い内容を含むTPA(及び関連法案)とTPPとの間の矛盾が露呈した会合と言えよう。もしかしたら環太平洋における流動的な地政学的現実の中で、グロ-バル企業の利益・権能の最大化に収斂するTPPそのものが持つ限界なのかも知れない? 

〇各国ともこれが最後かということで農業団体、医薬品業界など、特に日本からはメディアを含め大勢が現地入りした。自民党・農業団体・経済団体は最終日に報告会を開催したが、異常なほどの自民党ペ-スの中、「サァ次は何としてでも大筋合意、そしてその後のTPP対策の政策・財政措置を!」の大合唱で閉会した。 

〇自民党からは、森山裕、西川公也、宮腰光寛、吉川貴盛、小野寺五典の各議員、民主党からは徳永エリ議員及び玉木雄一郎議員が現地入りした。

〇市民団体は、パブリック・シチズン(米国)、第3世界ネットワ-ク(スイス)、公衆衛生協会(豪州)、シェラ・クラブ(米国)、国境なき医師団(米国)、日本からは「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」(3名)・「TPPに反対する人々の運動」、「アジア太平洋資料センタ-」・「農民連」・「TPPって何?」が参加し、各国市民団体と3日間の記者会見を実施、29日の地元団体の抗議活動に参加した。

2.経過など 
プログラム
1)市民団体を中心に:プログラムは別紙に
〇初日を概要説明・問題提起とし、29日・30日で説明

〇閣僚交渉の予定が流動的で報道関係者はフォロ-に追われたこともあり、過去の会合の時と比べメディアの出席が少なかったのが残念だった。

①7月28日(火)10時半:マウイ島閣僚会合で何が問題となっているのか
〇山田正彦氏(元農水大臣、「違憲訴訟の会」言語団共同代表) 
 農産物、通貨条項、米国議会“承認手続き”、暮らしの中に広がる反対運動と安倍政権批判、などについて報告し、違憲訴訟についても言及
〇デボラ・グリ-ソン氏(豪州・ラトロ-プ大教授、公衆衛生協会)
 知財、特に医薬品や公的保健制度への影響
〇マ-ティ-・タウンセンド氏(米国シエラ・クラブハワイ代表)
 環境問題とTPPについて
〇ピ-タ-・メイバードック氏(米国パブリック・シチズン)
 知財、特に医薬品の問題から

②7月29日(水)10時半:TPP交渉の憲法との対立、東京地裁への提訴
〇山田正彦氏、三雲崇正氏(違憲訴訟弁護団、新宿区議会議員)

③7月29日午後:地元団体による抗議行動、記者会見、一斉にホラ貝を吹く人数のギネス記録への挑戦など。

④7月30日(木)10時半:TPPの及ぼす医薬品、保健制度への影響
〇ジュディット・ルイス・サンファン氏(米国・国境なき医師団)
〇デボラ・グリ-ソン氏(豪州・ラトロ-プ大教授、公衆衛生協会)
〇ピ-タ-・メイバードック氏(米国パブリック・シチズン)

2)内閣府政府説明会:7月29日15時~15時半!!(資料省略)
〇最も重要な段階での説明会が、たったの30分で、かつ今までに比べて最も内容の乏しいモノとなった。

①内閣府・渋谷審議官説明
〇物品市場アクセスと、ル-ルの難航分野である知財における医薬品のデ-タ保護期間問題を中心に協議をしているが、まとまるかどうか何とも言えない。医薬品デ-タ保護期間について、米国医薬品業界は開発投資の回収期間としての12年、後発医薬品中心の国は早期の普及と安価な医薬品に基本をおいて5年以下、日本は安全性審査のための期間として8年を考えているが、各国とも隔たりが大きい。物品市場アクセスではカナダが前向きな姿勢で交渉に出てきている。全体会合・2国間協議・事務レベル協議など並行的に進めている。
〇甘利大臣も28日午前中に豪州ロブ大臣、NZグロ-サ-大臣、午後は米国フロ-マン代表と協議の後、全体会合。全体会合では「この会合で合意する意志の共有」を強調。29日はベトナム、マレ-シア、シンガポ-ルと2国間協議をした。
〇各国閣僚ともまだ最後のカ-ドを切るところまで到達していない。31日13時半からの共同記者会見を予定している。

②質疑(質問のポイントのみ)
〇29日9時のウィキリ-クスの国有企業指針に関連して、国が関わっている農畜産関連団体、そこを通じた価格安定諸制度が影響・制約あるいはISDSに晒される懸念があること、そのことの深刻な日本農業への影響をどう考えるのか?
〇知的財産権の過剰な保護は医薬品以外でも文化的・社会的には後退とも言える。大筋合意としてまとめてもその後に未だ多くの課題を残すと考えられる。大筋合意あるいは最終合意とは具体的にどのような内容を指すのか?
〇大事な会合であり、29日の30分の説明会だけでは問題だ。後半で再度やるべきだ。国会決議を常に忘れずに交渉していると言うが、何を持って“守った”と考えているか?関税で妥協する代わりに対策を講じて再生産可能にするということではなく、関税で守った上で、その上で持続的な農業生産を発展させるべく政策を講じるということが、国会決議の正しい読み方ではないのか?
〇署名後の各国の発効手順、TPPの発効基準はどうなるのか?今回大筋合意に到達する場合はもう一度説明会を開いてその後の展開を説明して欲しい。

③渋谷審議官からの質問への回答
〇畜産。農業団体とは別途コミュニケ-ションを取っている。国会で承認いただける内容とすべく交渉をしている。
〇国有企業への優遇措置は、内外無差別であれば現在の制度・政策は何ら問題にはならない。また、その限りではISDSの対象とはならない。
〇医薬品関係についてのスタンスは、難病患者を救う開発の道を閉ざさない、途上国と先進国との格差・対立を作らない、安全性を損なわないなど“バランス“を基本に臨んでいる。著作権に関わる懸念も充分伺っている。
〇今回大筋合意になっても、実務レベルで残って詰める課題が多いはず。その意味で大筋合意。最終合意は確定条文に署名すること。
〇未だ議論になってないが米国の“承認手続き”のようなことにはならないのではないか?
〇仮に今回合意出来たら、メディア向けの詳しい説明をする。皆さんにも何らかの形で加わってもらうつもりだ。
〇「発効規定」は未だ整理されていない。

3)自民党議員団。業界団体報告会:7月31日夕刻{共同記者会見・甘利大臣記者会見後リッツ・カ-ルトンHにて} 
〇「国会決議遵守」を訴えた声もあったが、全体の雰囲気は、与党としての自民党と共に「大筋合意を前進させよう」「その後はしかりした財政措置を」の大合唱との印象。
〇配布資料(省略):自民党議員団「閣僚会合終了に当たっての声明」、経済同友会「TPP閣僚会合の閉幕に際して」、閣僚共同声明(英文・和文)

①政府・自民党出席者
〇森山 裕、西川公也、宮腰光寛、吉川貴盛議員ほか(発言者以外は出席未確認
一応よかった。TPP対策に取り組む。時期を失してはいけない。交渉団に感謝。
〇甘利 明経財・再生相、鶴岡公二首席交渉官ほか

②業界などからの出席
〇経済団体代表、農畜産団体代表、地方自治体関係者、その他業界団体代表など

③会場からの声
〇報告会実施に感謝。交渉団の尽力に感謝。国会決議・国益を意識した交渉と理解。
〇現地での個別説明や意見聴取の実施には特に感謝
〇安易な妥協を排して国会決議遵守を願う。
〇農協改革に取り組む。若い農家が希望を持って経営できることを期待する。地域の声も届いたと思う。

(4)閣僚共同記者会見(別室モニタ-から主要な回答部分のみを抜粋)
〇米国フロ-マン代表:全てが決着しないと何も決着出来ない。難航分野で実質的前進。
〇NZグロ-サ-大臣:乳製品は食べ物の中で常に最後に残される。意味のある帰結が大事だが、まだそれが何かは充分明らかではない。
〇豪州ロブ大臣:砂糖と乳製品でトレ-ドオフという捉え方はしていない。合意するということは双方に総体としてメリットがあるということだ。その意味では前進している。12ヶ国・世界のGDPの40%を占めるTPPで合意が出来ればビジネスのコスト・時間の大きな節約になる。
〇米国フロ-マン代表:(次回会合について)我々も実務者も継続的に協議を続ける。そして残る問題の解決に集中する。
〇日本・甘利大臣:(北米圏での日本の自動車の位置付けについて)TPPという経済圏でのバリュ-チェーンを作ることだ。それに向かって大きな前進が見られた。もう一回やれば全て決着するだろう。
〇米国フロ-マン代表:甘利大臣のおっしゃる通りだ。目標はこの地域での成長を実現し、雇用を増やすことだ。TPPは開かれたもので、この高い基準を達成できる国は参加出来るし、(シンガポ-ルなどでTPPへの期待値が下がっているというが)そのような経済圏である故に参加を希望する国、モメンタムも出てくる。
〇日本・甘利大臣:TPPは21世紀型のルールを目指している点、成長する生きたEPAである点が今までの経済連携と異なっている。WTOが頓挫しているだけに新たな世界標準になり得る。
〇メキシコ:我が国は世界で7位の自動車産業の国。重要であるだけに交渉でも拘っているのは確かだ。しかし交渉全体は前進し、いいところまで来ていると思う。 
〇カナダ:我々はTPPを妥結させるために来た。近く再開した時にも、この交渉を完了させる気持ちで臨む。
〇NZグローサ-大臣:NZが障害となっているという見方は受け入れ難い。NZはTPPの当初からのメンバ-で、小さな国だが乳製品は世界でも最大の輸出国で大切なものだ。我々は原則関税撤廃を目指しているがこれまで妥協も譲歩もしてきた。そして誠意を持って交渉している。

(5)甘利大臣記者会見(閣僚共同記者会見後。別室モニタ-から主要な回答部分のみ抜粋) 
以下は内閣府サイト掲載の記者会見概要URL⇒ 
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/08/150731_daijin_kaiken2.pdf 

〇ハワイでは多くの分野で合意が出来、難航分野も大きく前進した。ただ一部の国の間での物品市場アクセス、知財の一部で各国の利害対立が残り、合意には至らなかった。しかしもう一回やれば決着できると思っている。
〇時期を決めた方が段取りも決意も集中出来ると思うが、議長が慎重な判断をした。8月末にやろうという認識は共有されていると思う。
〇(臨時国会で審議を、と言った経過はあるが)次回で大筋合意が出来て、それからどの程度速く進められるか、米国での手順もあり、どの国会でやるかは政府が決めることになる。
〇(物品市場アクセス決着の道筋について)一部の国々の物品市場アクセスが進んでいないが、関係する国々がそれぞれ自覚を持つということだろう。
〇(交渉の進め方がよくなかったかどうか)最後になるとどうしても、少しでも自国の利害を確保する動きは出てくる。
〇(各国が最終の手の内を見せたかどうか)決着させようと言う気持ちで臨んだという感じは各国ともあった。
〇知財の周辺部分はかなり整理がついたが、中核的なところは、互いに超えられないところがあったようだ。次回にこれだけが残って全体を駄目にするということにはならないのではないか?
〇次回にまとまらないとなかなか日程的には厳しくなる。米国も手順など一定の判断・工夫をしてくるのではないか?

3.私的感想
(1)狭い意味での政治としては、オバマ大統領の政治基盤の脆弱さがTPAとTPPとの矛盾を交渉の場に持ち込み、加えて大統領・USTRの稚拙な政治的詰めが交渉合意に至らなかった大きな要因ではないか? 
〇TPAに縛られ米国は柔軟な妥協・譲歩が出来ない、各国にとってはTPAと関連法案は受け入れがたい内容を含んでいる。
〇米国政治の事情で論理的には不可能な日程と手順でTPP交渉が進められている。
 
(2)大きな政治的流れとの関連では、アジアの成長を取り込み、同時に、中国に対峙する枠組みを主導したいという日米の思惑が色濃いTPPは、好ましい新たな秩序を目指す上では、既に時代遅れではないのか? 
〇環太平洋における多様な発展と複雑な地政学的現実に対応出来ないばかりか、他の地域連携の枠組みとの利益相反が避けられないし、地域の不安定要因になりかねない。
〇グロ-バル企業の利益と権能の肥大化に収斂する協定は、政治的にも適正な制御を難しくする。
(3)日本の交渉力への疑問?
〇いくつかの国は譲れない一線をこれまでも明確にして交渉に臨んでいる。一方日本は譲歩の検討が先行しがちである。 

〇米国は、ウィキリ-クスの漏えいした業界とUSTRの親密なメ-ルから読み取れるように、業界は要求をぶつけ、知恵を提供し、時にはUSTRを前から引っ張り、あるいは、後ろから押して、一体となった交渉をしている。

 〇日本では交渉官は市民と没交渉、業界は政府・与党の土俵に上がってお願いをするだけで(経団連などは多少違うのかも知れないが)、総力戦になっていない。

 TPPはやはり、ジェイン・ケルシ-氏がいみじくも言った「異常な契約」のようだ。あるべき経済連携のあり方をあらためて考える時期に来ているのかもしれない。

※参考:8月末実質合意、11月半ばに妥結・署名とした場合の手順・想定される流れ
但し、TPA法案修正・成立前の内容を基に作成したものだが、手順については変わっていないと推測する。

8月末
閣僚会合で合意⇒条文作成・法的チェックの作業。TPAに基づき米議会に協定締結の意向を伝達(署名90日前に)
9月下旬
TPAにより妥結=署名60日前までに条文をUSTRのサイトに掲載

妥結=署名30日前までに成文の写しと必要な行政措置を議会に提供
11月下旬
APEC首脳会議に並行してTPPに署名⇒各国は国内手続きに。日本では臨時国会で審議。
年内
米国では署名後105日以内に国際貿易委員会の評価報告、実施法案を議会に提出⇒ここから審議が始まる。(評価作業は署名前にも開始か?)
審議は下院で60日以内、上院では+30日以内、両院で20時間以内
2016
1/2月~3月米大統領選予備選本格化(ス-パ-チュ-ズデイ)⇒71821日共和党大会、7月下旬民主党大会で大統領候補選出⇒118日投開票

(2015年8月5日(水)TPPに反対する人々の運動・近藤

2015年8月2日日曜日

「大筋合意には至らなかった」TPP閣僚会合で市民訪問団より現地レポート

「大筋合意」が見送られたTPP閣僚会合で、現地入りしている市民訪問団より、速報が入ってきました。 以下は現地の活動報告と印象の報告となります(現地時間7月31日夜)。

【7月28〜30日】
1,市民団体が記者会見を開催
・日本、豪州、米国で開催。日本の「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」より、山田正彦幹事長と三雲崇正弁護士が「違憲訴訟とTPPの影響」を話す。
・日本からの市民訪問団が通訳、司会、ビラ撒きなどを行う。

2,地元団体の抗議行動に参加
・閣僚会合前の砂浜で7月29日、地元団体の抗議行動に参加する。
・山田正彦氏がスピーチ。

3,政府説明会
・日本政府が30日、説明会を開催する。
・「もっとも重要な時期にもかかわらず、これまでの説明会の中で最も短時間で全く『無内容』なものでした」と訪問団よりコメント。

4,共同記者会見&報告会(主催:自民党議員団と業界団体)
・「正体見えたり!」の現実があらわれる。
・31日午後4時からの共同記者会見と日本の“自民党議員団、業界団体主催”の報告会が開催される。

1)共同記者会見
・印刷された閣僚共同声明は、その場では新聞記者にも配布されなかった。
・後でUSTRのウェッブサイトには掲載された。
・日本語訳は夕方の日本人向け記者会見と業界団体向け報告で配布された。
・「これは今までなかった異常な対応です」と市民訪問団より。
・部屋外のモニターでメデイア以外の市民訪問団も様子を見て聞くことが出来た。
・閣僚は国名を明かさないまま。しかし実際はその国か分かるように触れられたため、その国の閣僚の苦虫をかみつぶしたような顔とが印象的。みな疲れた顔。

2)記者会見の内容
・「大筋合意には至らなかった」と明言した。
・その上で、米国議会や日本の秋の国会日程も考え、「8月中にもう一度閣僚会合を開催して合意に持って行く」とも明言した。
・ルールの大半は着地点が見えた。問題は知財、特に生物製剤のデータ保護期間と物品の市場アクセスだった。
・一口で言うと、TPP交渉の大詰めで話す内容ではなく、「TPP交渉を始める“キックオフ”のような内容に終始しました」と市民訪問団。

3)あきれた業界向けの説明会
・これでは米国との交渉に勝てる訳がないと思えるような内容。
・米国の業界は、最大限の要求を突き付け、政府を後ろから押し、前から引っ張っている。
・しかし、日本の業界(ビジネスグル―プの業界)は、まず自民党のセットした会合に喜んで参加し、すでにこれからは「大筋合意とその後の財政対策を期待」する流れに乗ってしまっている。
・JA全中と製糖業界が小さな声で「国益遵守」を言っただけで、全体の流れは、「大筋合意を前進させよう」「しかしその後は業界を支えるための財政対策だけはしっかりして欲しい」というものだった。

5,総体的に
・「分かり切ったことですが」との断りのあと、市民訪問団より以下のコメント。
・「すでにTPPは地域の経済の新たな方向を目指すものでもなく、覇権と個別利害がぶつかっている」。
・「大国のエゴと“小国のささやかな愚痴”の矛盾が浮かび上がるものだ」。
・「米国のTPA法案審議の過程と、特に最終段階のTPP交渉で誰の目にも明確に見える姿を晒してしまった」。
・「今こそそれに代わる、あるいは対峙する、“人々にとってのあるべき地域・国際関係”をこそ考え直し作ることが喫緊の課題になっていることを感じさせられました」。

以上

【メディア報道/参考記事】
TPP大筋合意至らず 米通商代表「交渉継続」(NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150801/k10010174851000.html
TPP閣僚声明 全文(NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150801/k10010175031000.html
■TPP、土壇場でNZの攻勢 「自由貿易」強気に主張(朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/ASH81547FH81ULFA00D.html
■NZ譲らずTPP合意見送り、打開へ日米加連携(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20150801-OYT1T50150.html?from=ycont_top_txt
■焦点:TPP漂流なら日米に痛手、8月末が合意ラストチャンス(ロイター)
http://jp.reuters.com/article/2015/08/01/tpp-analysis-idJPKCN0Q631L20150801
■TPP閣僚会合、大筋合意見送り-乳製品や自動車でなお溝(ブルームバーグ)
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NSE2IW6JTSE901.html 

【関連・参考写真】※現地の限られた撮影環境からの写真となっていることを承知ください
地元での抗議行動






2015年7月18日土曜日

ウォーターズ議員、オバマ大統領に米国金融改革をTPP協定から除外するよう訴える

1ヶ月ほど前のものでかつ短文ですが、簡潔でかつ力強い、米下院金融委員会筆頭理事である民主党ウォーターズ議員からオバマ大統領に宛てた書簡を「STOP TPP!! 市民アクション」翻訳チームが訳しました。

金融が実体経済を超えて肥大化する中で、ひとたび金融システムが危機に見舞われると世界の経済に深刻な影響を与えることは、98年アジア危機、07年からのリーマンショックでも明らかです。TPPの金融サービスの内容は余り表に出てきていませんが、規制緩和・内外無差別の論理から想定される内容は、経済的には知財や市場アクセス以上に深刻な影響をもたらす危うさを秘めているものと思います。

TPPの金融サービスの章や投資におけるISDSが、金融システムの安定を担保するための途上国などにおける金融規制や、金融の健全性や安全性確保により国際的な金融危機に対応するための各国の金融制度改革を台無しにすることが懸念されています。
TPPを主導する米国でもこの7月21日からボルカー・ルールが実施されます。米国では規制緩和が進む中1999年にグラス・スティーガル法を廃止、銀行がリスクの潜む自己勘定での取引、投資銀行業務を出来るようにしました。ところが07年からの金融危機で銀行の自己勘定取引が巨額の損失を出し、ボルカー氏が預金を扱う銀行の高リスク業務を禁じる規制を提案、ドッド・フランク金融規制改革法に盛り込まれました。この法規制でさえ不充分との声もある中で、TPP協定の曖昧な規定ではドッド・フランク金融規制改革法やボルカー・ル-ルでさえ機能しなくなることが懸念されます。

エリザベス・ウォーレン上院議員のように「ボルカー・ルールは重要な一歩だがグラス・スティ-ガル法復活を求める」声もあります。TPPは、アジア金融危機、リーマンショックの再来を放置せよと言っているようなものです。(翻訳:小幡 詩子/監修:廣内 かおり)

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ウォーターズ議員、オバマ大統領に米国金融改革をTPP協定から除外するよう訴える

ワシントンDC6月5日―ホワイトハウスは、参加12か国から成るTPP(環太平洋経済連携協定)交渉が妥結できるよう連邦議会に対してTPA(貿易促進権限)を強く求めているが、昨日、マクシーン・ウォーターズ下院議員(カリフォルニア州選出の民主党下院金融委員会筆頭理事)は、TPP協定によって、ドッド・フランク:ウォール街改革及び消費者保護法の一環として可決されたものを含む、きわめて重要な金融改革が後退するとの懸念を表明した。

オバマ大統領宛ての書簡の中で民主党首席議員として、米国のさまざまな貿易協定におけるいわゆる“プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”条項における解釈上の不明瞭性及び限界を強調した。 本条項は、各国政府に対し、金融の健全性を保つための金融政策を実施する政策的余地を与えることを狙いとしている。 これに対しウォーターズ議員は、多くの法学者や貿易政策専門家の間では本条項の文言が曖昧且つ不明確で、今日まで検証もされていないとの見方が強いと指摘した。

ウォーターズ議員は書簡の中で、「今春、マイケル・フロマン米通商代表が下院民主党執行部と会談した際、現在のTPP協定案では金融規制の政策的余地が制限される可能性があるのではないか、という我々の多くが持つ懸念を退けた」と記している。 さらに「この問題に対する現政権の自信のほどを歓迎する一方で、残念ながら私は、この貿易協定の文言、とりわけ“プルデンシャル(健全性保全上の)例外”を見る限り、この自信に疑念を感じざるを得ない」と続けている。

またウォーターズ議員は書簡で、“ISDS(投資家対国家間紛争解決)”の仕組みを採り入れたことに、特に懸念を表明した。 ISDSは、外国人投資家に対し、“期待”した投資の成果が得られないとの理由で、あらゆる金融規制や措置について民間仲裁委員会の場で、直接アメリカ政府に異議を唱える権利を与えている。

ウォーターズ筆頭理事は、消費者を保護し金融システムの安定性をはかるために制定された改革の真意が、仲裁委員会によって損なわれることになり得る、と懸念を表明した。 さらに、オバマ大統領に対し、TPPの投資条項が金融政策に適用されないよう強く要請した。

「金融制度全体にかかわる重要事項-つまり国際金融システムの安全性及び安定性の問題―に我々が日々取り組んでいるなかで、昨今ますます異論が噴出している、その場限りの民間仲裁委員による投資の審査に委ねられる、曖昧な“プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”を信頼するというのは、あまりに見当違いであるように思える」とウォーターズ議員は付け加えた。

書簡の全文は以下の通り。
6月4日 2015年

親愛なる大統領

過去24年間、下院金融委員会の委員として、また現筆頭理事として申し上げますが、グローバル化のなかでも特に困難な局面に対して、当委員会は幾度も責任ある取り組み方法を策定する先導的役割を担ってきました―例えば、1990年代後半のアジア金融危機に対応する超党派の合意、また2007~2008年の国際金融危機への緊急且つ即時の対応、続いて米国の金融システムの抜本的改革にも取り組んで参りました。

我々は、長年にわたり、国際通貨基金(IMF)や世銀など世界経済を進める主要機関にも注力し、これらの国際機関の透明性、民主性を高め、最貧層の人々のニーズに呼応するための改革を後押してきました。

当委員会の民主党首席委員になって以来、私は、国際的な取り組みとして特に、懸案中のIMFにおける一連の出資・議決権・融資枠の割当額改革案を強く支持すること、 また最近では、米国企業が国際輸出市場において今後も公正に競争できるよう、米国輸出入銀行の再認可のためにあらゆる手を尽くしてきました。

また、グローバルな経済協力の重要性を認識した米国貿易政策を、公正性を推進するという手法で構築することにも携わってきました。そしてそのなかで、本書簡―金融規制とTPPの問題について―をしたためるに至った次第です。 マイケル・フロマン米通商代表は今春、下院民主党執行部と会談した際、TPP協定案が金融規制に向けた各国政府の政策立案の余地を制限することにもなり得る、という我々の多くがもつ懸念を退けました。

フロマン代表は、“プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”について-本規制は、米国の貿易協定において各国政府に対してプルデンシャル(金融の健全性保全)を理由とする規制を容認する旨の標準的条項ですがーこれに言及しながら、現政権なら連邦議会が制定を希望する新たな金融安定装置に加えて、2008年度の金融危機に対して可決された抜本的ドッド・フランク金融規制改革法を首尾よく守り抜ける、と我々を説得しようと努めました。

ドッド・フランク金融規制改革法は、実際、本質的に金融の健全性を保全するものであると私は認めており、この問題に対する現政権の自信のほどを歓迎します。一方で、残念ながら私は、米国の貿易協定の文言、とりわけ“プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”を見る限り、この自信に疑念を感じざるを得ません。

まず、ご存じの様に“プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”が有している意味、範囲、適用については、法学者や貿易関連専門家らがこれまで活発に議論してきました。 専門家の中には、この例外の文言で金融の健全性を保つための金融規制を十分に守ることができると信じている人もいますが、殆どはこの文言が、精一杯解釈に努めたとしても、曖昧なものであると結論づけています。 また“プルデンシャル”という用語は米国の貿易協定においてどこにも定義されておらず、WTOにおいても同様です。 例外という用語が紛争処理委員会によっとどのように解釈されうるのか、様々な可能性の余地を作り出すことが懸念されます。

さらに、“プルデンシャル”という用語は時間及び文脈と共に変化するものです。 このように基盤が変化することは、紛争処理委員会で例外の適用がいかに解釈され得るのかを予測しようとしている、各国政府にとっても不確実性を生み出します。 “プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”に関してWTOで裁定されたことがなく、それゆえ公的記録には本条項の公式の解釈はないという事実からも、この不確実性はますます高くなります。

しかしながら、最も重要な点は、異議を申し立てられた金融政策もしくは政府の措置が正当な“プルデンシャル(金融の健全性保全)”を理由とするものなのか、そして“プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”によって実際にその金融政策や政府の措置が保護されるのか否かの判断が、最終的に民間の国際仲裁委員会によって下されるところにあります。 現在提案されている様に、TPP協定ではISDS(投資家対国家間紛争解決)を通じて、金融規制に対して他国の政府のみならず個々の金融機関からも異議申し立てを容認することになっています。 ISDS法廷はいかなる政府当局からも独立して開廷され、下される採決の多くは予測不可能であり、判例にも縛られず、実際上控訴に晒されることもありません。

金融制度全体にかかわる重要事項-つまり国際金融システムの安全性及び安定性の問題―に我々が日々取り組んでいるなかで、昨今ますます異論が噴出している、その場限りの民間仲裁委員による投資の審査に委ねられる、曖昧な“プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”を信頼するというのは、あまりに見当違いであるように思えます。

一般論として、私は、ISDSを米国の貿易協定に採り入れることに対し強い懸念を抱いています。 しかし少なくとも、ISDSを含めTPP投資条項は金融政策には適用されないようにすることを大統領に強く訴えたいと思います。 そうすれば、消費者を守り、金融システムの安定性を維持しようと懸命に闘ってきた我々の取り組みを後退させることにも決してならないでしょう。

下院金融委員会筆頭理事
マクシーン・ウォーターズ

以下は民主党下院ウォータ-ズ議員の大統領あて書簡及び6月5日付けのプレスリリースの英文原本へのリンク
http://democrats.financialservices.house.gov/news/documentsingle.aspx?DocumentID=399165

(翻訳:小幡 詩子/監修:廣内 かおり)

2015年7月13日月曜日

TPP『合意』は許さない!7.22 緊急国会行動

最大の山場。国会決議違反・秘密交渉は許さない!
総力を結集して、政府へ国会へ

TPP『合意』は許さない!
7.22 緊急国会行動
日時:17 時座り込み 19 時~20 時/大アピール行動
場所:衆議院第2議員会館前を中心に


 アメリカ議会でのTPA法成立を受けて、安倍内閣は「7 月末合意が可能だ」とコメントし、アメリカとともに「合意」へ主導的役割を果たそうとしています。7 月9 日から日米協議が、24 日からはハワイで12 カ国首席交渉官会合、引き続き28 日から閣僚会合が予定されています。

 しかし、他の国を見ると、「TPA成立は合意が近いことを意味しない」と語る国もあるように、一路「合意」へ向かっているわけではありません。新聞報道などでは、日本政府はすでに国会決議に踏み込んでいる可能性も高く、秘密交渉のまま「合意」に走ることは許されるものではありません。

 TPP交渉最大の山場・・全国各地でTPP反対・懸念の運動を進めている団体・個人がよびかけあって、「合意など許さない!」の声を、政府に国会に、社会に向けてアピールしましょう!

<緊急行動内容>
17:00~19:00 国会議員会館前座り込み行動
 *怒りのリレートーク *お散歩デモなど
19:00~20:00 「TPP『合意』は許さない!」アピール行動 
 *各界からのアピール *緊急アピール採択

<よびかけ人(50 音順)>
天笠啓祐(遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン代表)/石田敦史(パルシステム生活協同組合連合会理事長)/内田聖子(アジア太平洋資料センターPARC事務局長)/加藤好一(生活クラブ事業連合生活協同組合連合会会長理事)/坂口正明(全国食健連事務局長)/鈴木宣弘(東京大学大学院教授)/住江憲勇(全国保険医団体連合会会長)/醍醐聰(TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会よびかけ人)/中野和子(TPPに反対する弁護士ネットワーク事務局長)/庭野吉也(東都生活協同組合理事長)/原中勝征(TPP阻止国民会議代表世話人)/藤田和芳(大地を守る会会長)/本田宏(外科医、医療制度研究会副理事長)/山下惣一(TPPに反対する人々の運動共同代表・農民作家)/山田正彦(TPP差止・違憲訴訟の会幹事長)/山根香織(主婦連合会参与)

賛同団体を募ります・・7 月21 日までに下記事務局FAXかメールアドレスへ。
賛同と当日の参加を大いに広げましょう!

<共同事務局>
□TPP阻止国民会議(連絡先:山田正彦法律事務所)
千代田区平河町2-14-13 中津川マンション201(℡03-5211-6880 FAX03-5211-6886)

□STOP TPP!!市民アクション(連絡先:全国食健連)
渋谷区代々木2-5-5 新宿農協会館3 階(℡03-3372-6112 FAX03-3370-8329)メールで連絡の場合・・・・ center※shokkenren.jp (※マークを@に変更して送付ください)

2015年7月3日金曜日

GE、インテル、ジェネリック業界…USTRのメール交信報告から浮かぶ産業界のTPP人脈図

スイスに拠点を置く交際的なNGOで、国際的な知的財産に関する政策のもたらす影響などを紹介、報告をしている「知的財産ウォッチ」が米国の情報公開法Freedom of Information Actに基づいて入手したUSTRと産業界側の“顧問”(TPP交渉の助言者として認められた数百人もの業界代表)との間での電子メール交信についての概要報告の翻訳です。内容はTPPそのものの秘密情報を含むものではありません。しかし、これまで“数百人もの企業を代表するTPP交渉顧問”と言われていた面々が、実際USTRとの間でどんなことをしているのか、その一部の断面が実に生き生きと伺われる愉快なレポートです。 (翻訳:西本 裕美/監修:廣内かおり)

★ ★ ★

産業界の秘密・緊密なTPP関与、米通商代表部(USTR)の機密メールで明らかに

米国と12の貿易相手国が秘密裏に交渉している環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の結果によって、あらゆる利害関係者が影響を受けうる一方で、企業代表は交渉テーブルの特等席に着いてきたことが、「知的財産ウォッチ」が入手した米通商代表部USTRの数百ページに及ぶ機密メールから明らかになった。このメールから、USTRでどのように政策が形成されていったかに関する貴重で興味深い知見が得られた。

交渉開始から数年、TPPは妥結間近であり、米国議会における大統領のファストトラック包括交渉権限(この権限下では、議会の役割は賛否の採決に限定される)の更新に関する討議における課題であると言われてきた。しかし、TPPの文書は、これまで決して―その一部が時折リークされたことを除けば―交渉参加国の市民に公開されてこなかった。ゆえに、今回の電子メール入手は上記の討議にとって時宜を得たものとなった。

「知的財産ウォッチ」は、情報公開法(FOIA)に基づく請求によって、USTR職員と業界側の顧問が交わした400ページあまりに渡る電子メールを入手した。その殆どは黒塗りの編集が施されていたが、それでもなお、これまでの経緯を理解するのに役立つ。

今回はじめて一般に公表された電子メール(2010~2013年)
(1), (2), (3), (4) [all pdf].

上記情報公開法による請求は、「知的財産ウォッチ」のためにイェール法科大学院「報道の自由と情報公開」専門法律相談所Media Freedom and Information Access Clinic により訴訟の対象として持ち込まれたものである。「知的財産ウォッチ」は貿易交渉そのものへの見解は示さず、TPP交渉における極端な秘密主義によって、この交渉についてなんらかの意味のある記事を執筆することができない、と主張してきた。TPPに関する報道は大抵、詳細に触れず会議の日程と課題を挙げるのみである。

[注:今回のメール公開を引き出したイェール大と「知的財産ウォッチ」による訴訟は進行中で、TPP文書自体の公開を目指しており、裁判所の判決を待っているところである。]

今回のメールで特筆すべきは、政府交渉者が業界の大物達に専門的知見や助言を求めたことではない。交渉者と業界側の顧問達が、彼ら以外のどんな利害関係者とも比べようがないほど緊密な関係にあることが暴かれたことである。

「知的財産ウォッチ」は、議会メンバー、中小企業、公益活動団体、学術団体、その他の”非認可”顧問との関わりの記録は請求しなかったので、それらとの緊密度を直接比較することは出来ない。しかし、例えば、公益全般を代弁する活動家が、いかに専門家として認められていたとしても、このレベルの近しい待遇を受けるとは想像しにくい。

メール交信に登場する”認可”顧問は、企業、業界団体から法律事務所までに及ぶ。彼らの中には、アメリカレコード協会、米国研究製薬工業協会PhRMA、ゼネラル・エレクトリック、インテル、シスコ、ホワイト&ケース(法律事務所)、高度医療技術協会(AdvaMed)、アメリカ映画協会、ウィレイ・レイン(法律事務所)、エンターテインメントソフトウェア協会、ファンウッド・ケミカル、米国化学工業協会、クロップライフ(アグリビジネス業界団体)、メドトロニック(医療機器メーカー)、アメリカン・コンチネンタル・グループ(コンサルティング会社)、アボット(医薬品メーカー)が含まれる(順不同)。ジェネリック医薬品業界の代表とのメール交信もある。

これら産業界の代表の多くは、USTRのOBである。

メール交換の例

USTR職員と産業界のメール交換は、交渉期間中に言及されたTPPに影響を与え得るあらゆる話題を網羅している。例えば、日本や他国を含めるようなTPP参加国の拡大、交渉参加国間の透明性に関する協定、医薬品アクセスに関するUSTRの公式声明、カナダとその文化、米国特許改革法案、知的財産権と環境問題に関する情報、ソフトウエアの特許適格性、EU・他の貿易協定・国際開発との関係、そして、予想通り、協定草案の構成要素に関する膨大な協議である。

例を挙げると、ゼネラル・エレクトリックの航空部門代表タヌジャ・ガーデは「“商行為に関わる秘密保護trade secret”に関して、君が提出した文章をシェアするか、電話で話せないか?」と依頼し、これに対してUSTRの職員プロビア・メータは「チャットしよう。月曜のどこかは?」と答えている。他の箇所では、ガーデはメータに「ダラスでの提出分について聞いたよ。いい内容だった。会議所には報告したか?(※米国商工会議所、産業界の団体)」と書き、メータは「有難う、タヌジャ。本当に君とジョーのおかげだよ!(※USTRの職員ジョー・ホワイトロックのこと)米国商工会議所の「TPPと知的財産」作業部会で先週報告したところだ。」と返している。

“商行為に関わる秘密保護”に関する議論には、他の大企業も参加している。デュポン、コーニング、マイクロソフト、クアルコムなどだ。

他の例では、エンターテインメントソフトウェア協会(ESA)の副会長ステーブン・ミッチェルが、交渉中の技術保護手段(TPM)に関するESAの分析の草案を提供している。USTRはこれに対し、「来週のどこかでランチの時間がとれるか?」と返答している。

シスコ・システムのジェニファー・スタンフォードはTPPとサプライ・チェーンの問題に関わっている。インテルのグレッグ・スレイターはまだ公開されていない課題に関するメモを提供している。ウィレイ・レイン法律事務所のティモシー・ブライトビルは省庁をまたがる提案のための国有企業(SOE)に関する文案を至急提供するよう依頼されている。

RIAA(アメリカレコード協会)は、電気通信の章を検討して質問し、”情報処理技術勉強会(ITAC)の選抜メンバーによる著作権法と施行に関するTPP草案”について議論し、インターネット・サービス・プロバイダーに関する文案にコメントし、ニュージーランドで行われている適法なオンライン音楽サービスの情報を提供している。国際知財同盟International IP Allianceも著作権とその施行に関与している。更に、著作権関連産業の代表らは、著作権の制限・例外、副次的責任の選択肢、安全ルールに関する彼らの見解を送付している。

ITACは、産業部門毎にいくつかあるUSTRの産業貿易諮問委員会である。

早い段階で、クロップライフのドゥグ・ネルソンは、彼のチームがクアランプールとベトナムで両国の官僚に対し、農業用化学品のデータ保護に関するロビー活動を行ってきており、「彼らが、データ独占重視のTRIPS協定第39条3項を受け入れることは確実である」と述べている。彼は、クロップライフが、ニュージーランドでの次のTPP会合でプレゼンの機会を持つか、あるいは米国代表団の一員として参加出来ないか問い合わせている。USTR職員のスタン・マッコイは、ニュージーランド政府が民間セクターの並行会合をどう扱うか知らないと回答している。

2011年のメールでは、マッコイはGEのロビイストに「特許改革法案の調印式にGEのCEOが出席するなら、ニュージーランドの貿易大臣ティム・グローサーが出席することを知っておいて欲しい。ニュージーランドにTPPで強力な知的財産(保護)の章を支持するよう勧める素晴らしい機会になるだろう。」と伝えている。

他には、ファンウッド化学のジム・デリスが原産地規則の草案を見て、言っている。「USTRに借りができた。この規則なら我々の規則と同じだ・・・喜ばしいことに。」

さらなる例として、AdvaMedのラルフ・アイブスは、USTRのバーバラ・ワイゼルとTPPに関するあるCEOの書簡について意見交換をしている。ワイゼルは、その書簡を見るまではコメント出来とした上で、「お気遣いに感謝するけれども、書簡の中の交渉人の名前は明かさないで欲しい」と言っている。アイブスは明らかに書簡の草稿と共に返答している。「(草稿に)手を入れてくれとは言わないが、こんな感じで送ってよいか教えて欲しい」。ワイゼルは、それに関して自分と会って話すよう要請しつつ返答し、さらに会合を設定するとしている。他の箇所では、AdvaMedが貿易に関する技術的障壁(TBT)の議論に参加している。

オーストラリアの医療産業協会が、USTR職員との直接の交信に加わっている。

今回の電子メールから明らかになったことで特筆すべきは、交渉官、そして業界の代表は、週末も休日も、数え切れないほど世界中を旅しつつ、非常にハ熱心に長時間働いていることだ。
USTR職員が定められた規則を守ろうと努力していることも、その交渉の秘密の度合いに同意すらしていないのかもしれないことも明らかになったようだ。2012年のある時点で、USTR「知的財産と革新」部長のヤード・レグランドはあるロビイストに伝えている。「あなたや関係者の皆さんと、必要ならすぐ連絡がとれるようになったことは喜ばしい。ご存知の通り、実際のところ、私は“非認可顧問”とは草案について話せないので。」

また他のところでは、USTRの首席交渉官バーバラ・ワイゼルから産業界に、同じことを何度も繰り返さないようにとの要請がなされたとの記載もある。(翻訳: 西本 裕美/監修:廣内 かおり)

2015年6月26日金曜日

日本政府の TPP 交渉にかかる出張旅費9億円超え(PARCプレスリリース)

当グループの構成団体である「アジア太平洋資料センター(PARC)」が24日、情報公開請求をした日本政府のTPP交渉にかかる出張旅費を発表しました。作業の一部を市民アクションも担当しました。以下に情報を掲載します。


【日本政府の TPP 交渉にかかる出張旅費、9億円を超える(アジア太平洋資料センターHPより転載/2015/06/24)】

このたびNPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)は、日本がTPP交渉に参加して以降の政府交渉官の出張旅費・会議費について、関係する4省庁に情報開示請求を行いました。その結果、2013年3月~2015年2月末までの2年間で、9億円を超えていることがわかりました。長期化する交渉が、経費を増加させていることがデータから読み取れます。この経費の財源は私たちの税金であるわけですが、9億を超す額であるにもかかわらず、交渉内容が一貫して秘密であることは国民からすれば納得いくものではありません。米国議会ではTPA(貿易促進権限)法案の動きも流動的で交渉が漂流する可能性も指摘される中で、この「コスト」は、果たして日本にとって本当にメリットとなるのか、「ムダ金」に終わるのか、私たちは改めて政府に交渉内容の十分な説明を求めます。

■はじめに―調査の概要

◆情報開示請求の概要◆
★対象期間:2013年3月~2015年2月末(2年間)
★対象省庁:内閣官房、財務省、農水省、経済産業省、外務省の5省庁
※外務省についてはTPP交渉と、日米二国間協議交渉の2つを担当しているため、2件の情報開示請求を行った。
★請求内容:①TPP交渉の閣僚会合や首席交渉官会合、中間会合などのため出張した職員の旅費
※出張旅費には、航空券代、宿泊費、国内交通費、変更に伴うキャンセル料が含まれる。
②国内での会議費(会場費、水代など)
★作業はSTOP TPP!!市民アクション(http://stoptppaction.blogspot.jp/)の協力を得て実施した。

TPP交渉の分野は多岐にわたるため、日本政府は内閣官房内に「TPP政府対策本部」を設置し、関係する各省庁からの交渉官を統括している。ただ交渉会合への参加経費については、各省庁からの支出となるため、「内閣官房」「農林水産省」「経済産業省」「財務省」「外務省」の主要4省庁への情報開示請求を行った。開示請求を行ったのは2015年3月6日。どの省庁からも1か月の開示延長がなされ、最終的な開示がなされたのは5月中旬~下旬であった。
情報開示請求の内容は、①TPP交渉の閣僚会合や首席交渉官会合、中間会合などのため出張した職員の旅費、②国内での会議費など(会場費、水代など)とした。対象期間は2013年3月~2015年2月末の2年間である。 開示の結果、そのほとんどが出張旅費であった。5省庁からの領収書は1570件にも及んだが、そのすべてを入力・集計した。今回調べた省庁の他にも国土交通省や金融庁なども少人数ながらTPP交渉に職員を派遣している。

以下、詳細はアジア太平洋資料センターHPへ。
http://www.parc-jp.org/teigen/2015/tpp_research20150624.html