2012年8月17日金曜日

次回のTPP全体会合は9月6日─国際NGOの中での分析と情報

 今回は7月上旬に米国サンディエゴで開催されたTPP正式ラウンド後に行われた情勢分析会議から作成したメモをお送りします。次回9月6日からの米国リースバーグでのラウンドに向け、国際的なネットワークで今後の運動が検討されています。大統領選による情勢変化の可能性や、知財・労働・環境など分野ごとの情報など必見情報が満載です。(内容紹介:近藤康男 監修:廣内かおり)

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TPP交渉サンディエゴラウンドを経て
(国際NGOの中での分析と情報)
2012年7月19日

「政治的解決」を許さない運動を
次回全体会合(9月)及び今年の末に向けて、現在意見が別れている課題を暗礁に乗り上げたままにしておくためにいまやるべきことを見極め、TPP交渉が「決着」できないよう、新たな議論を仕掛けていく必要がある。
実質的な内容を知らない大臣や首相の決断に弾みがつくので、9月(あるいは12月)までに決着を、という主席交渉官の指示を受け、括弧書き部分(合意されていない部分)の多くが削除され妥結に近い文言になっていく危険がある。APEC首脳会議にオバマ大統領が出席しないのはいいが、貿易担当相は妥協点を探り始めるだろう。
いくつかの課題は”政治的”で市民意識の向上や各国での反対運動があることを明確にするために、いまこそ力を注ぐ必要がある。そうすれば、政治レベルの重要な取引になった時、行き詰まったままの課題が意味を持つようになる。
各国のキャンペ-ンは非常に重要だが、TPPの命運を決めるのは米国だ。他の国々は、米国がもう行き詰まりだと言うまでは交渉を続けるだろう。
カナダとメキシコが交渉に参加する前にいくつかの分野をまとめてしまいたいという希望があり、“(議会承認のための)90日前通知”がすぐに送致されなかったのはそのためかもしれない。サンディエゴ会合が終わる頃には通知は送られたが…。12月にはカナダとメキシコは、いずれの分野であれ、まだ妥結していない分野の交渉に参加することになる。カナダを米国の仲間と見ている国もあるし、自国の味方になるかもしれないと考えている国もある。国有企業の問題については、メキシコは実質的にASEANの仲間になるという見方が強い。メキシコとカナダの戦いを支援するためにも彼らの交渉参加の前にどの分野の交渉を終了させようとしているか情報を集積する必要がある。
煙草規制の例外措置、著作権、環境、気候変動など、新たな21世紀の課題に対応しているように見せ、なんとか問題化した課題を消滅させ、問題は解決したとして利害団体を分裂させる可能性に注意したほうがいいだろう。

次回会合に向けて米国内の動き
次回の全体会合は9月6日に始まり、APECと重なる。おそらく8日のTPP参加国首脳会議の後でないと、主席交渉官は会合に戻ってこない。会場はワシントンDCから1時間ほどのリ-スバ-グ。柵などで囲まれたカントリ-クラブだろう。9月の会合を米国で行うというのはなかなかうまいやり方かもしれない。更なる圧力をかけることも必要だが、同時に政治的な課題や財源の問題を言い訳にするには米大統領選前の最後の機会でもある。リ-スバ-グはワシントンDCから近いので我々も味方を集められるが、産業界も同様だ。
米国内の諸団体は米国の政治状況に絡めた戦略を練る必要があるが、選挙が近く、簡単ではない。米国の諸団体はこの目的のために定期会合を開いているが、マイナス面を伴わずにどうしたら効果的な活動ができるかを見つける必要がある。選挙前のTPP関連の市民行動は民主党の票にとってマイナスになるだろうか?こうした弱点を逆手にとって、大統領選前にオバマ陣営がTPPへの圧力をかけられないようにするために、何ができるだろうか?
大統領やUSTR幹部が交替しても、TPP交渉はまず中止にならないだろう。しかしロムニ-が勝てば、環境や労働に関する野心的な提案は多少後退するかもしれない。障害を1つ取り除くことにはなるだろうが、ほかの課題については米国の立場に問題が残る。
知財分野では、USTRがワシントンを訪問して圧力をかけるだろうということは承知している。今後は他の交渉が今から9月までにどのように続けられるのかを見極める必要がある。当分は注視し続ける必要があるだろう。
ワシントンでは各国大使が交渉の妥協点を探るため、集中的な取り組みや圧力があるかもしれないが、こうした動きは目に見えず、米国の縄張りの中で行われる。ワシントンではTPP積極派のオ-ストラリアやニュージーランドからの圧力が予想される。

個別分野での動き
<IP  知的財産分野>
USTRが動く前に途上国が共同で対案を出す可能性について。TRIPSを改善し、IP法や慣行について整理したものになる可能性はある。そうであれば支持できるかもしれないが、現在の米国の提案に置き換わるとは考えにくい。TRIPSプラスαのような提案は、結局2007年交渉のような形で終わるだろうから回避したいところ。他の参加国と一緒に進む別の方法を探そう。
チリは結論に至る明確な考えを持っている。他の参加国は静観の模様。特許について、9月には議論されない予定。10月に中間会合がなければ正式な議論は12月まで延ばしたい意向だ。これについて、参加各国はあまり歓迎していない。私たちとしては、交渉プロセスに対応していく必要があるだろうが、交渉官は、高度なレベルで取引きがおこなわれる段階には至っていないと感じているようだ。

<Labour 労働>
USTRと会って、現在までの到達点について彼らの意見を確認してから、今後の動きを見極めたい。ペル-からの混乱を招く発言は、USTRがいかなる強制もできないことを示唆しているようだ。交渉の遅れにつながるかもしれないが、更に考察を重ね、探る必要がある。できるだけ早く労働問題の関係者を訪ねよう。それぞれの国の労組と意見交換をし、彼らに質問をしよう。
マレ-シアのNGOはサンディエゴ会合の報告を受け、情報を収集しようとしており、情報の更新が必要だ。マレ-シアは環境関連の内容には反対する意思を明確に表明している。
AFL-CIOは9月の米国の労働に関する立場について、幹部の会合は開いていない。選挙前には内部的にも対外的にもあまり前には出ない模様。選挙モ-ド一色で、選挙で失敗を招くようなことは望んでいない。しかし組合員が、TPPについて(組合員の利益になるよう)充分な取り組みがなされていないという印象を持てば、選挙後のオバマ大統領の動きについて質問を投げかける可能性もある。

<Environment 環境>
米国では、政治的立場を超えて環境団体の調整を進めるグル-プが動いているが、その戦略は多国間環境協定に対する米国の立場にテコ入れをしようというもので、5月10日の合意と拘束力のある執行可能な章を補強しようとしている。米国の立場は、他の参加国との間で大変な亀裂を生んでいる。早い段階で、米議会、に最近の協定にこだわるよう書簡を送ろう。環境団体からも同様。
気候変動:ニュージーランド、チリ、ペル-からの3つの正式な提案が俎上に挙がっている。NZの提案は化石燃料の生産または補助金の削除に関するもので、G20とAPECの立場を再度主張している。アジア・太平洋地域内の取引市場を見据えた二酸化炭素排出権の価格を決定するためのTPP参加国間の協定をめぐる気がかりな文言がある。これについては、京都議定書の動きを弱体化させ、離脱を勧める戦略と見るむきもある。もしTPPに市場メカニズムができれば、京都議定書の非継続が正当化されるのである。
ペル-の提案はNZの対極にあり、気候変動枠組み条約の原則を支持し、差異ある責任を伴う発展途上国寄りの提案である。情報を整理して一覧表を作成し、またIUTの情報を入手、引用する予定。気候変動は新たな協調のために骨抜きになるかもしれない、と聞いている。
生物多様性についてはほとんど情報なし。ペル-はもっと強い表現を求めているがまだ会合は開かれていない。おそらく高い目標を設定していると思われる。この問題については、非常に懸念事項が多い。
環境に関する物品・サ-ビス分野もオ-ストラリアがWTOでの同国の立場を押しすすめようとしている。おそらく市場参入の問題と思われるが、まだ始まったわけではなく、もう少し情報が必要。WTO問題で活動してきた人たちと連絡をとる予定。

<Investment 投資>
漏洩情報はダラスでの会合に提出されたもので、交渉の結果ではない。削除された括弧(争点として残されているという印)が多少あると聞いている。サンディエゴではSection Bの投資家対国家間紛争解決に焦点が当てられた。しかしどれだけの実質的課題に決着がついたかはハッキリしない。
Section Aについては争点となっている括弧印はあまり残っていない。そのうち、いくつかはダラス全体会合の前に決着している。公的債務に関する付属文書は賛成が1カ国だけなので諦めたようだ。ペル-は1点、ペル-と米国のFTAに含まれる内容を反映したク-リングオフ期間だけだが、括弧にこだわっている。いくつかの参加国は、GATTにおける 一般的例外規定条項であるART XXという方式よりも有用な、投資に関する一般的な広範囲の例外を考えている。財政収支の安定、保健、環境などをカバ-している。議論の早い段階で阻止する有効な手立てを考えてきた。いくつかの参加国が意味のある例外規定に関心を持っている。
オーストラリアはSection B(ISDS)では協議をしていない。チリはNZと同様、例外を設けるオ-ストラリアに反対したと語った。オ-ストラリアが例外を維持するなら、自分たちも同じようにしたいとする国がいくつか出てくるだろう。オ-ストラリアがこだわり続けるかどうかは、高度な政治判断となるだろう。
グァテマラの事例は丁度いいタイミングだ。焦点は2つの主要な法的課題:MST(最低待遇基準)の定義には、附則と国際的な慣習法のみを使おうという様々な関係者による請願が明示的に却下された。根拠は廃棄物管理の判例であり、TPPの提案ではMST問題が解決しないことを示している。また、一般的なMST違反に関する広範な自由裁量の問題もある。

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