2013年4月13日土曜日

4.2「TPP参加をとめる!院内対話集会」が開かれました!



4月2日衆議院議員会館で「STOP TPP!! 市民アクション」の呼びかけで、224団体による賛同を受け、約150名の参加者を得て“院内対話集会”を開催することが出来ました。
 3月15日の安部首相によるTPP交渉参加表明を受け、準備を進め、以下の趣旨に沿ってこれまでTPP反対の運動に取り組んできた団体などに呼び掛けたものです。

<趣旨>:当日配布資料から

「STOP TPP!! 市民アクション」は、これまでTPP交渉参加反対で運動してきた団体・政党・会派、国会議員が、改めて連携を強め、国民的規模で協力に運動を進めていくことをめざして、「TPP参加をとめる!院内対話集会」を呼び掛け、開催させていただくこととしました。

 私たちは、交渉参加表明がなされた後も、様々な反対運動が共に力を合わせ、市民、諸団体や超党派の国会議員の声を国内外に届け、TPPを阻止する決意でいます。
 本集会では、参加した各団体が情勢の認識を共有し、今後の運動の方向について率直な意見を出し合い、重要な局面では声を掛け合って共同の取り組みが出来るきっかけの会合としたいと思います。

 当日は、野田克己さん(大地を守る会)の司会で議事が進められ、冒頭の坂口正明さん(国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会)による簡潔で適確な交渉参加表明に対する批判と幅広い共同行動を目指そうという問題提起を兼ねた挨拶で集会が始められました。そして政党代表の発言、団体代表からの発言、会場からの発言の3部構成による活発な集会とすることが出来ました。

 挨拶に立つ坂口正明さん

 TPPから日本の食とくらし・いのちを守るネットワ-ク(幹事団体:JA全中、全漁連、全森連、全国農業会議所、生活クラブ連合会、パルシステム生協連合会、大地を守る会、中央酪農会議)からのメッセ-ジも読み上げられました。

 多くの発言者が、地域からの地道な取り組み、その積み上げによる大規模な共同行動、国際連帯の重要性を訴えられました。その点で大きな成果があったと言えますが、今後はその実現のための丁寧な働き掛けをそれぞれの団体で意識することが問われると思われます。

〇挨拶
 安部首相と自民党は「聖域を守る、公約を守る」と主張しているが、日米共同声明は守るべきものを何も勝ち取っておらず、明らかな公約違反である。また秘密交渉である限り、理由を開示し国民が納得できる形で交渉から降りることは出来ないはずだ。TPP参加国の国民の利益を裏切り、グロ-バル企業の利益を拡大するTPPには一貫して反対してきた。幅広い結集で持って参加反対の世論を盛り上げ、参院選を含む社会的な大運動を巻き起こしていきたい。

1.各政党代表の発言

〇生活の党:佐藤公治 参議院議員
8年前の郵政選挙を堀江貴文氏と戦った。その時の延長線上に今の政治・社会のム-ドがあり、棄権を感じる。日米関係は大切だが、北朝鮮・中国に対して毅然とすべきとの論調には、何故米国にはそのような態度を取れないのか、と言いたい。

〇みどりの風:舟山康江 参議院議員
TPPに代表される新自由主義の流れに対峙すべきとの思いで結党した。交渉参加表明後にも多くの反対の声が挙がっていることに心を強くしている。国会でも頑張るが、TPP参加阻止の国民運動を作ろうという声を挙げることが大切。

〇民主党・「TPPを慎重に考える会」:篠原 孝 衆議院議員
TPPは大きな枠組み、社会全体を覆うものだ。国民の安全は防衛だけでなく、食・医療。雇用などを抜きには守れない。安倍政権はこれらのこと、特に雇用には全く触れていない。

〇社会民主党:福島瑞穂参議院議員(党首)
 超党派の女性議員でJA全中にも行き頑張ってほしいと要請をし、昨年は米国の労組も訪ねた。彼らもTPP反対を言っていた。TPPを受け入れることは社会保障も雇用もいのちも、主権までも危うくさせるもの、そして大企業だけには利益をもたらすものだ。

〇日本共産党:紙 智子 参議院議員
安部首相による国民との約束破りと交渉参加表明という亡国の約束に怒りを覚える。国際的な流れを見るべき。TPPで中国・インドなどを抜きにアジアの成長を取り込むことなどあり得ないし、守るべきモノを危うくさせるだけである。今からでも間に合う、国民的運動で包囲の輪を作ろう。

2.賛同団体からの発言

〇北海道農民連盟:委員長 山田富士雄
食料基地北海道、輪作体系の農業は一つの作物が危うくなるだけで経営全体が崩壊する。空気・水そして食と農なくして生活は出来ない。TPPはこのこととの整合性を全く持っていない。

〇パルシステム神奈川ゆめコ-プ:理事長 吉中由紀
TPPは互恵の社会を踏みにじるもの。消費者が声を挙げることが大切と思い、これまで反対運動に取り組み、100万人の食造りの自給運動もやってきた。国益だけを叫ぶのは戦前に戻るような空気を感じる。国際連帯、相互の互恵を考えることがTPPでは大切だ。

〇自由法曹団:弁護士 瀬川裕貴 
弁護士の立場でISDS条項を懸念している。韓国も早速提訴された。法規制だけでなく行政措置も対象になり得る。一度負ければ同様の提訴が続き制度変更に追いつめられる。国内での提訴に加え国際仲裁も出来るというのは、外資のみの特権だ。

〇全国保険医団体連合会:会長 住江憲勇
TPPは米国の戦略的意図を体したもの、医療でも貫かれている。医薬品へのアクセスの改訂要求や民間医療保険の拡大など医療法第7条の営利・配当禁止が覆される。TPPは閉鎖的な協定で、これでは世界の国々は入ろうとしないだろう。

〇TPPを考える国民会議:代表世話人 原中勝征
あらゆる団体・政治家は国民の生活を守るべきものと考え反対運動に参加している。TPPは守るべき基本、日本の固有の価値を毀損するもの。大震災の後人々は互いをいたわり生き延びてきた。これは。金が正義という価値観とは相いれないものだ。

〇主婦連合会:会長 山根香織 
TPPには一貫して反対してきた。関税撤廃が前提でない、ということだけで受け入れられるものではない。グロ-バル企業の利益を守るために、地域、固有の歴史や価値、文化を危うくするもの、競争原理があってはならないところにもそれを導入するものだ。

〇JA岩手ふるさと:胆沢地域センタ-・営農経済課長 亀井房雄
被災3県の農業はやっと30数%が再開。TPP参加でこれも頓挫するだろう。岩手県農協中央会では30%の農業が崩壊するとの試算結果を出した。しかし今日の各発言のようにTPPは農業だけの問題ではない。今後もその立場で反対をしていく。

〇全国労働組合総連合:事務局長 小田川義和
多国籍企業によるル-ル造りに断固反対。先日フランスやポルトガルの労組と交流してきたが各地でEPAに対する怒りの声を実感した。すでに労働法制はTPPと同じ方向に進みつつある。内外の連帯を強めたい。

〇メッセ-ジ紹介
「TPPをとめる!院内対話集会」にご参集の皆様におかれましては、日頃より、TPP反対の活動を精力的に展開されていらっしゃいますことに、心から敬意を表します。さて、安倍首相は3月15日に、TPPへの参加を正式に表明しました。ご承知のとおり、TPPは、例外なき関税撤廃により、わが国の農林水産業に壊滅的な被害をもたらし、地域経済を圧迫することは疑いようもありません。
 そればかりでなく、食の安全性、医療、雇用など、私たちの食、暮らし、命を守る諸制度を強引に変容させ、私たちの生活に重大な影響をもたらすものです。そのため、当ネットワ-クはこれまで、TPPが国民生活や地域社会全体の問題であることを広く訴え、様々な方面と連携し、国民運動を展開して参りました。私たちは今後とも、TPP断固反対を掲げ、みなさんと同じ思いで、全力で戦い抜くことを固くお誓い申し上げ、ご挨拶とさせていただきます。
平成25年4月2日
TPPから日本の食と暮らし・いのちを守るネットワ-ク

3.会場からの発言及び団体発言者からの応答

〇バラバラに戦っても駄目だ。参院選でも野党は統一候補を目指すべき。
〇直接的大規模行動を提起してほしい。
〇中央での行動に加え地域からの運動が必要だ。地域でも外国ファンドによる不採算事業からの撤退要求などTPP無きTPPとも言える実態が進み地域が壊れようとしている。
〇各地域でも諦めずに自民党を含めて議員に働きかける運動を続けよう。
〇食糧自給の問題を懸念しているが、官僚はマイナスの影響試算は出し難いと言う。議員から強く働きかけて欲しい。
〇国会でも試算の内容・基礎に疑問を呈している。農水大臣も再試算の可能性もほのめかした。
〇情報公開・収集を強化すべきだ。
〇国民の声を参院選にぶつけよう。
〇後期高齢者問題の時に、国民の声が強ければ議員も動くと感じた。国民運動を作ろう。
〇TPPに危うさを感じている議員も多いが、業界団体ごとに条件闘争に流れるのが怖い。地域での横の運動の広がりが重要。また地域が壊れるのは日本だけではない、国境を越えた国際連帯の運動が欠かせない。

 最後に司会が参院選・TPP反対の地域からの取り組み、大規模集会などの行動、国境を越えた運動が重要であり、その運動作りのための提起を互いにしよう、という取りまとめをして閉会しました。

 政党挨拶とは別に日本共産党・笠井亮議員(衆)及び田村智子議員(参)、生活の党・三宅雪子前議員が出席され、また秘書の方による代理出席もいただきました。

<賛同団体一覧(224団体、2013年4月2日現在)>

アーススピリッツ/アール・エッチ・エス/ISフーズ/アイフォーム・ジャパン/アオティア/あかれんが/秋川牧園/アジア太平洋資料センター/アジア農民交流センター/A SEED JAPAN/ATJ(オルター・トレード・ジャパン)/ATTAC Japan(首都圏)/APLA/アマナクラ/アリモト/安間産業/遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン/飯尾醸造/井口食品/一の塩/井筒ワイン/いりえ茶園/いわみ地方有機野菜の会/上島/AMネット/エコ・コミュニケーションセンター/エコワン/遠忠食品/置賜百姓交流会/オーガニック本間/大潟村げんき有機部会/大牧牧場/おきたま自然農業研究会/おきたま興農舎/おびなた/オブネットwith粋男会/月山パイロットファーム/華農/蕪栗米生産組合/川端グループ/川原製粉所/甘楽町有機農業研究会/紀ノ川農協/協同センター・労働情報/くらぶち草の会/グループ八ヶ岳/国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会/高生連/コープスター会/小金沢養蜂/国産生薬/黒怒/コッコー/埼玉大地の会/埼玉西部産直グループ/佐久ゆうきの会/桜井食品/札幌中一/佐渡トキの田んぼを守る会/SAP/さんぶ野菜ネットワーク/サンファームヤマサ/サンライス有機の会/サンワローラン/食の安全・監視市民委員会/庄地区無農薬研究会/庄分酢/紫雲寺土の会/JAみやぎ仙南/JA岩手ふるさと胆沢地域/JAやさと(やさと農協)/JA茨城県中央会/JAいわて くじ短角牛肥育部会/JA函南東部(函南東部農業協同組合)/JA秋田ふるさと/JA佐久浅間(佐久浅間農業協同組合)/JA佐久浅間 臼田有機米部会/自然耕房/自然食通信社/士別農園/島源商店/ジャパンマシニスト社/首都圏青年ユニオン/自由法曹団/主婦連合会/上越有機農業研究会/上州なっぱの会/庄内協同ファーム/庄分酢/食政策センター・ビジョン21/食と農の再生会議/知床ジャニー/新藤/新日本婦人の会/新萌会/水車むら農園/スター食品工業/Stop!TPP/生活クラブ連合会/生活アートクラブ/全農林労働組合/全日本農民組合連合会/全国労働組合総連合/生活クラブ共済連/全国学校給食を考える会/全国商工団体連合会/全国生協労働組合連合会/全国保険医団体連合会/全国労働組合連絡協議会/仙台黒豚会 ライスネット仙台/全通/全日本民主医療機関連合会/全日本金属情報機器労働組合/全農協労連/総合農舎山形村/脱WTO/FTA草の根キャンペーン/大一食品工業/大地を守る会/大徳醤油/大文字飴本舗/タカハシ乳業/竹中池湧水有機・松商グループ/武久/田中屋製菓/谷口海産/玉屋珈琲店/地球的課題の実験村/千葉畑の会/千葉北部酪農農業協同組合/中央社会保障推進協議会/千代菊/漬物本舗/TPPを考える国民会議/TPPに反対する人々の運動/TPPって何?/天恵グループ/天鷹酒造/東都生活協同組合/徳岡商会/どさんこ産直センター/利守酒造/長崎有機農業研究会/ながさき南部生産組合/中津ミート/中野水産/中村醤油/中山商店/懐かしい未来/成清海苔店/日本消費者連盟/日本医療労働組合連合会/偽百姓/にいがた有機農業推進ネットワーク/日本自治体労働組合総連合/日本食品工業/日本婦人団体連合会/二本松有機農業研究会/日本有機/農山漁村文化協会/農民運動全国連合会/農民連京都産直センター/はたちょく九州/花とハーブの里/羽山園芸組合/パルシステム茨城/パルシステム生活協同組合連合会/パルシステム神奈川ゆめコープ/パルシステム共済生活協同組合連合会/パルシステム埼玉/パルシステム東京/パルシステム千葉/ピープルズ・プラン研究所/東日本産直センター/肥薩自然農業グループ/常陸野産直センター/広島県漁業協同組合連合会/ファビナス/フォーラム平和・人権・環境/福栄/フジワラ化学/舟形マッシュルーム/フルーツバスケット/ふるさと海土/Project99%/プロスペリティ/ふろむあーす&カフェオハナ/房総食料センター/朋和商事/北海道農民連盟/マゴメ/増野/松幸農産/松田農園/マリーレン/まるほ食品/丸共バイオフーズ/マルダイ商事/まるや八丁味噌/丸夕田中青果加工/丸和油脂/三崎いか直販センター/南伊豆水産/宮島醤油フレーバー/無農薬生産組合/武蔵地鶏会/ムサシ堂/ムソー/Meisters Backstube/メイド・イン・アース/朋和商事/もっこす倶楽部/モリ産業/山形南陽のんのん倶楽部/やさか共同農場/野菜くらぶ/やまくに/山織/山形県有機農業者協議会/ゆうきの里東和/横浜土を守る会/米沢郷牧場/ライスロッヂ大潟/酪農王国/リバーグリーン(以上、224団体)

【問合せ先】
STOP TPP!! 市民アクション事務局
メールアドレス:muramachitpp【a】gmail.com(【a】を@にかえて送信下さい)

2013年4月3日水曜日

旧態依然のTPP/NAFTA型貿易からの脱却を──米国労組がオバマに突きつけた新たな貿易モデル

 ワシントンでの日米首脳共同声明の直後、米国最大のナショナルセンターである米国労働総同盟産別会議(AFL-CIO)が執行委員会見解を発表した。新たなNAFTAモデルの出現に対する懸念を表明し、日本の参加に対する懸念を強く表明している。オバマ政権最大の支援団体であるAFL-CIOが、オバマ政権への貿易政策にこれだけの提言をした意味は大きい。(翻訳:池上 明/監修:廣内 かおり)

☆ ★ ☆

環太平洋経済連携協定:働く仲間たちは新しい貿易モデルを必要としている

2013年2月27日

 現在交渉中の環太平洋経済連携協定(TPP)は、21世紀の貿易政策を律する新基準となる可能性を秘めている。しかし、その交渉についてこれまで公表されている内容を見ると、その期待に応えられないのではないかとの大きな懸念を抱かざるを得ない。アメリカの働く仲間たちに必要なのは方向転換だ。すなわち、高賃金労働の創出、団体交渉の促進、製造業に対する戦略の実行、我々の生活基盤及び人材に対する再投資などに焦点を当てた王道の戦略である。

 アメリカと世界における平等な経済成長を推進するには、貿易・経済政策に必要な改革を国際的に進めつつ、労働基本権の拡大と強化をもたらす手法が必要だ。こうした改革は、需要主導型の成長を通して所得格差を是正するために、全ての人々の所得と生活水準を向上させる世界的ニューディールの一環として、現行の政策と一線を画さなければならない。

 NAFTA(北米自由貿易協定)に始まり、韓国及びコロンビアとの協定へと引き継がれているアメリカの貿易モデルでは、雇用者に労働者グループ同士の対立を促進させ(国内でも国際間でも同様である)、こうした目標がないがしろになっている。このモデルの下、我が国の貿易赤字は著しく増加しているのだ。

 NAFTAが発効した前年の1993年、750億ドルだった貿易赤字は今日、5,400億ドルへ増加(名目)した。NAFTAにならったこのモデルによって、労働者の諸権利、賃金、年金及び労働条件、そして資源の保護、食の安全及び消費者保護の面で底辺への競争(最低水準を導くような競争)が助長されている。こうした政策は、第一に中産階級の台頭を促す公共政策を脅かす。このような底辺への競争を促進する政策を改めさせることは、労働者の団結、団体交渉の自由をあらゆるところで推進させる我々の活動と同じくらい重要である。

 AFL-CIOは終始、NAFTAにならった貿易モデルを批判してきた。それには、投資、労働基準、政府調達、サービス、金融サービス、そして原産地規則をはじめとする商業上の重要規則が含まれている。 貿易政策が前に進むためには、これら各分野での転換が必要である。つまり我々は、富を生み出す労働を担う人々こそが貿易による利益を確実に享受できる全く新しいモデルを必要としているのである。

 AFL-CIOは、アメリカとその他11カ国(オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムそしておそらく日本)を包摂するTPP が、NAFTA型貿易モデルの過ちを繰り返す重大な危険があると考えている。交渉は継続中だが、アメリカが突きつける提案の大部分が、現行の貿易モデルをそのままなぞっているように見えるのだ。このことは、我が国経済を強化し、所得格差を是正し、持続可能な成長を推進する機会を失する悲劇的な結果を招くことになるだろう。アメリカにはこれ以上、我が国の産業基盤を空洞化させ、膨大な貿易赤字を増加させるような貿易協定を結ぶ余地などないのである。AFL-CIOは次の重要分野について、具体的な変更をTPPに提唱している。すなわち、労働、国有企業、原産地規則、政府調達、通貨、投資(国内へのFDI〔海外からの直接投資〕に対するより包括的な審査を含む)、互恵的市場参入、サービス、金融サービス、環境問題、食品の安全性及びその他公共利益に関する規制、そして医薬品の入手といった分野である。しかしながら、TPPが現行の貿易モデルと明確に決別しない限り、労働者の支持を得ることはできないだろう。

 残念ながら、アメリカを再び便宜置籍国として利用している世界的企業は、我々の国益を通商交渉の場において決定することを目論んでいるようだ。そのような企業は、労働、環境及び社会的費用の削減により海外投資の呼び込みを図ろうとする国々を互いに競わせ、企業利益を拡大させようとしている。これはアメリカとその市民の経済的利益とは根本的に合致しておらず、多くの場合、自国での生活水準向上を目指す貿易相手国の利益とも合致していない。

 アメリカの「自由貿易」協定の成立において、グロ-バル企業は圧倒的に声を発しており、規制緩和、民営化、企業への税その他の優遇措置を推進し、労働者の交渉力弱体化、そして社会的セーフティーネットの縮小化を導いている。結果は明らかだ。つまり、貿易赤字、雇用の喪失、不平等の拡大、賃金の切り下げ、そして民主主義的統治の弱体化である。

 アメリカが貿易政策で、1%の最富裕層に対して構造的な偏りを見せている最も重要な例に、投資家対国家間紛争解決(ISDS)制度がある。これは公表済みの報告書でTPPに盛り込むよう提案されていることが明らかになっている。現行の貿易モデルでの投資家対国家間に関する内容とは、外国所有の一企業が、民主主義的に選ばれた政府の選択した、労働、飲料水または食品安全への規制、その他の規制や司法的決定に対して、自国の裁判所を迂回して、国際的な仲裁機関において異議を唱えることができるものだ。同じような権利が、労働者、市民、社会的な市民グループまたは国家及び地方政府に適用されることはない。これは実質的に二重の法律体系を作り出すものである。生産物や雇用を海外へ流失させる多国籍企業体は、公共利益のための正当な施策を妨害するために、これら諸権利を利用することができるのだ。これでは、我々の国内での雇用が縮小する一方で、海外の労働者仲間たちにも損失を与える結果となる。

 国内的にはこのような投資条項が、我々自身の公共利益に基づく正当な諸規制に対して、異議を唱える目的で利用されうるし、また利用されてもきた。

 例えば、アメリカの廃棄物処理企業であるメタルクラッド社は、NAFTAのISDS条項の下で、メキシコ政府に対する仲裁手続きを行った。現場では不安定な土壌により地域の水供給が汚染されうるという懸念が生じているにもかかわらず、同社の主張は、サン・ルイス・ポトシでの危険な廃棄物処理施設の開設及び操業に関して、メキシコ政府が許可を出さなかったのは不当だというものである。審判員は、NAFTAの下で保証されている「公正で適切な扱い」を受けるメタルクラッド社の権利をメキシコ政府が侵害したとした。カナダでの法廷によって賠償金額の一部が修正されたのちに、メキシコ政府はメタルクラッド社に1,560万ドルを支払うという結末となった。

 もちろんこの政策の推進者たちは、NAFTAにならったTPPの貿易モデルが、良い仕事や世界経済におけるアメリカの戦略的地位の改善をもたらすと公約をしている。NAFTA及び中国の世界貿易機関(WTO)参加の際に用いられたものと同じ公約だ。しかし結局、こうした公約は偽りだった。NAFTA発効以来、対メキシコ貿易赤字の拡大により、アメリカで正味70万人近くが失業するという代償を払わなければならなかった。中国のWTO加盟はさらに悲劇的で、アメリカ人労働者の270万人が失職するという結果となった。製造業だけでそのうちの210万人に達した。

 最後に我々は、TPPへの追加国の受け入れと新規参加国受け入れの手順についても重大な懸念を抱いている。

 我々は、日本のTPP交渉参加のための基本作業に関する最近の発表内容を不安視している。我々は日本の参加には反対である。日本の参加によって中産階級の良質な仕事が大量に脅かされる怖れがあるからだ。日本はしっかりした労働組合のある高賃金の国ではあるが、自動車市場は世界で最も閉鎖的な部類に属する。アメリカの製品やサービスは、USTR(連邦通商代表部)が日本の過去の為替操作に対する追及を含む非関税障壁の撤廃に向けたまったく新しい方策を適用しない限り、日本市場への有効な参入を果たしえないだろう。日本のTPP加盟に対する我々の懸念を払拭するには、二国間の協議が最適だといえるだろう。

 また、我々は他のいくつかのTPP加盟国、およびその可能性のある国々における労働と人権の実態も懸念している。TPPは「全ての参加希望国」の加入を受け入れ、労働権と人権の実態については不問に付すような、無条件加入の協定であってはならない。民主主義条項及び、各加盟国が「全ての」(出稼ぎ労働者を含む)労働者に対して労働基本権(ILOの基本条約及び法体系に明示されているような)を適用するとの公約は必須である。TPPは、この協定の下で貿易利益を供与する「前に」、まず民主主義及び基本的な労働権に関す最低基準を要求する必要がある。さもなくば、アメリカとコロンビアのFTA(自由貿易協定)の下で現在広がっているのと同じような状況に行き着いてしまうだろう。労働者たちの多くが団結、組織化及び団体交渉の自由を行使できない状態に置かれていても、労働権を侵害している国の「何らかの進展」が「満足できる程度」に達したとして認定されてしまう可能性がある。

 我々が表明しているこうした懸念を解決すべく、オバマ政権が透明性と公開性を高めて真摯に我々と取り組んでいることを評価する。透明性の拡大は重要だ。それは、TPPというものが、新しくかつ高度な基準を設け、人間中心の貿易協定の枠組みをつくるために、貿易相手諸国と協調する機会を象徴するものであるからである。アメリカ国民、その他のTPP加盟国の市民、そしてまさに世界中の人々は、公平な成長を推進し、人々の健康と安全を守り、持続可能な発展を促進する貿易政策を求めている。世界的ニューディールの一環として、共同の繁栄をもたらすこの好機を活用しようではないか。我々は、賃金、公益及び労働権利を脅かし、良い仕事の海外流失を促進して企業利益の拡大を安易に進めるような貿易協定をこれ以上必要としていない。我々はより良い方向を目指さなければならない。(翻訳:池上 明/監修:廣内 かおり)