7月16日に米国貿易代表部が利害関係者向けの会見を行った。TPP首席交渉官のバーバラ・ワイゼル氏と出席者とのやり取りの記録です。
「国内外の規制の一体化を求める“規制の一貫性”は指針であり、仮にTPP協定と同一の国内規制でなくともISDSによる提訴の対象とはならない」というUSTR主席交渉官の回答は更に注視する必要がありそうです。(翻訳:大谷一平 監修:廣内かおり)
※「規制の一貫性」については、「ジェーン・ケルシー:新たな世代の自由貿易協定がアルコール政策に及ぼす影響(後編)」(「TPPに反対する人々の運動」ブログ)も参考になります。
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TPP第14回拡大会合に関する
米国通商代表部・交渉責任者バーバラ・ワイゼルによる会見
(2012年7月16日)
<冒頭の説明>
サン・ディエゴ・交渉会合は非常に生産的だった。ダラス会合の勢いに後押しされ、サン・ディエゴ交渉会合が実り多いものになった。いま、条文の決着に向けて、急ピッチで動いている。多くの章で進展に手ごたえがあったが、まだ終結したとは言えない。交渉において決定した内容について、交渉官たちは自国に持ち帰り相談する必要があるからだ(米国もいくつかはその必要がある)。
もっとも大きな進展があったのは、関税、サービス、政府調達、電気・電子通信、(?)協力の分野で、交渉会合で行ける所までいった。まだいくつか 主要な問題が残っており、今後解決していく必要があるだろう。
分野横断的な章でも大幅な進展があった。中小企業、開発、貿易の促進、競争政策/サプライチェーンなどの分野だ。開発については、新たな提案が議題にあがった。妥結に向けて迅速に進めることが私たちの目的ではあるが、開発関連の諸問題については非常に重要なので、さらに多くの時間を割く必要があると認識している。
進展があった分野:TBT(技術的貿易障壁)、貿易救済措置、投資、金融サービス、労働。IPR(知的所有権)と電子商取引に関してはまだ先が長い。
また、物品、サービスおよび投資の市場参入についても話し合われた。これらは米国との間でFTAが締結されていない国々との二国間交渉の形をとっている。交渉会合開始前に、修正提案があった。繊維に関しては、利害関係者から多くの意見を受けとり、現在検討中。交渉担当それぞれがすべての意 見について検討している。
サービスと投資については、話し合いの大部分がNCM(不適合措置:条約と不適合な国内規制など)についてだった。NCMについては交渉会合開始前に新提案があった。まだやらなくてはいけないことが多く残されている。投資については条文そのものに関する作業がまだ多いが、市場参入について はそれほどでもない。市場参入と政府調達は話し合われなかった。
USTR(米国通商代表部)は今後リーズバーグ交渉会合までの間に、いくつかの会合に関わる予定である。カンボジアでのASEAN(拡大経済相会 議)には(経済)担当相が出席する予定で、TPP交渉参加国と話し合いを持つ機会になる。
ウラジオストックでのAPEC首脳会議の後、直ぐリーズバーグ交渉会合となる。多くの交渉官が休暇中だったり、ラマダンだったりするが、引き続き 進展させていきたい。
カナダとメキシコはリースバーグの交渉会合には参加しないが、10月に90日期間が過ぎた時点でスムーズに交渉に参加できるよう、USTRは両 国と緊密な協議を続ける予定である。メキシコ側の担当は先週ワシントンに来ており、8月もカナダ、メキシコ双方の担当がワシントンに来る予定である。日本についての情報はなし。
<質疑応答>
質問‐セレステAFL-CIO =米国労働総同盟産業別組合会議):TPPと既存の自由貿易との間で異なる基準がどう扱われるのか、いまだに理解できていない。厳しい方の基準が適用され るとも聞いたが、どのようにして“厳しい基準”が決定されるのかが不透明だ(例えば、何を「より厳しい基準」とするか、AFL-CIOと米商工会議所では見解が異なる)。
バーバラ:少し見方が違うようだ。私たちが言ったのは(例えば、一方が「30日前に意思を通達すること」と規定し、他方が「45日前に意思を通達 すること」とある場合のように)直接的な矛盾や不一致がない限り、双方の協定は共存するということである。このような不一致は皆さんが考えるほど 多くはない。ただし手順としては、相反事項のチェックリストを作成し、TPPのルールづくりが完成した後に、交渉官が一つひとつ明示的に解決する。TPPのルールすらまだまとまっていないため、これらの相反事項を解決する手順を作り上げていくという段階にまで進んでいない。しかし、透明 性の高い過程になることは確かだ。既存の自由貿易協定の当事者である二国間だけでなく、他の参加者にも影響を及ぼすため、他の参加者の意見も交渉に反映される必要がある。
補足質問‐セレステ:特定の事例について質問したい。NAFTAの労働に関する合意と、TPPで実施される可能性のある労働基準は不一致と見なさ れるのか、あるいは共存しうると見なされるのか?
バーバラ:理屈では共存しうる。そのような場合、不一致とする場合、米国もしくはその他の参加は、不一致であるという論拠を示す必要がある。
質問:リーズバーグ・交渉会合で利害関係者のための日程は予定されているのか?
バーバラ:その予定である。同じような形になるだろうが、今回の会場はもっと狭いので利害関係者のための日程やその他の手配を調整中。皆さんの中にはプレゼンテーションを希望する方々がいるかもしれないが、個人的には利害関係者たちとの1対1の対話形式のほうがよいと思う。
質問:12月の交渉会合の開催場所はどこか?
バーバラ:場所はまだ決まっていないが、米国ではないだろう。
質問‐メリンダ(パブリックシチズン):投資家対国家間紛争解決条項に関して、オーストラリアを例外扱いすることに反対しているニュージーランドに、チリが加わったことをサン・ディエゴで知った。米国はどのような立場をとるのか?オーストラリアが例外を主張し続け、それに対して他の国が反対し続ける場合、どのようなことが予想されるのか?
バーバラ:米国はチリ、ニュージーランドと同様の立場をとっている。投資家対国家間紛争解決条項が実施されることを強く支持し、協定の主要項目からいずれの国も除外されるべきではないというのが基本的な立場である。今後の展開については何も言えない。オーストラリアが投資家対国家間紛争解 決条項を受け入れるのか、他の国がオーストラリアの例外を認めるのか、もしくは折衷案が採用されるのか。決定するのはおそらく交渉の最終段階になるだろう。
質問‐マイク(アメリカン大学):USTRは知的所有権の立場についてPEPFAR(大統領エイズ救済緊急計画)やHHS(米国保健福祉省)、 (およびその他のジェネリック医薬品の消費者機関)に意見を求めているのか?
バーバラ:私たちの全ての政策は関係機関との緊密な調整過程の一部であり、すべての関係機関に意見を求めている。
質問‐ブルク(パブリックシチズン):知的所有権の主席交渉官が9月の交渉会合前にマレーシアを訪問する予定だと理解しているが、目的は? USTRが新しい条文を交渉の場に挙げる予定だと思うが、それと関連しているのか?
バーバラ:マレーシアだけでなく他の数カ国をもまわる予定である。USTRは交渉会合開催の合間に色々な国をまわり、各国の懸念材料をよりよく理解し、合意の道を見つけようと努めている。まだ機が熟しておらず、新しい条文についてどうするかは何も約束していない。
質問‐クリス(ASH):USTRはリーズバーグでタバコの例外扱いを議題にあげるのか?
バーバラ:まだ決めていない。
補足質問 クリス:ある章がいくつか締結されるとすると、米国がタバコについての例外を議題にあげる際に、例外適用の範囲に影響はあるのか?
バーバラ:そのような場合があるとすれば、実際にはその章は妥結していないということである。
質問 WWF:規制の一貫性の章についてと、その章が例えば環境規制に及ぼす影響について説明してもらいたい?
バーバラ:規制の一貫性とは基本的に、規制の策定過程の透明性を促進する新しい章であり、様々な規制を策定する過程で協力的に作業を行うことを担保するものである。国によっては、規制を策定する過程に透明性がなく、規制の一貫性がなくなってしまう場合がある。米国のような開かれた透明性の ある過程を促進するのが狙いである。米国は規制づくりの指針を示す提案書を策定した‐OIRA(情報・規制問題局)を通じた米国の規制作りのようなものが提案されている。ただしこれらは義務ではなく指針であり、投資家対国家間紛争解決条項の対象にはならない。
質問 メリンダ(パブリックシチズン):サプライチェーン管理(注:ビジネス円滑化)/競争力の章について説明してもらえるか?これらは過去の米国、もしくはその他の自由貿易協定の条項をもとにしているのか?競争力の章は他の章の評価に組み込まれていると理解しているが、どの章なのか?これらの評価の目的は?
バーバラ:これは新しい章なので、過去のいずれの自由貿易協定の文言にも基づいていない。サプライチェーン管理を包括的に捕らえる試みだ。各国は 強力なサプライチェーンを進めようとしているが、その方法はいくつかの章に分散している。様々な章の規定をまとめ、サプライチェーン管理と競争力 の面から評価しようとするもの。これ自体は何かを新しく約束するものではない。評価する予定になっている章はまだ決まっていない。市場参入、原産地規則、関税、サービス、労働等があがっているが、検討中である。
補足質問 メリンダ:この章について、もっとも多く条文を議題にあげているのはどこの国か?
バーバラ:私たち(米国)だろう。
質問 セレステ(AFL-CIO): 規制の一貫性について、投資家対国家間紛争解決条項の対象にならないとのことだが、例えば企業は、規制の一貫性に関する章の指針に従って規制を策定していない、という理由で国家を訴えることができないということか?
バーバラ:できない。規制の一貫性の章には義務が含まれておらず、投資家国家間紛争解決条項の対象にはならない。
コメント セレステ(AFL-CIO):交渉の進展状況を考慮すれば、リースバーグでは交渉会合が終了しようとする時期に利害関係者との会見を開催してほしい。そのほうが、共有できる情報がより多くあるだろう。また、交渉担当官たちが私たちの意見をリアルタイムで聞けるよう、利害関係者が 建物内に入れるよう再検討してほしい。
バーバラ:逐一相談する必要があるほど、最終の段階には至っていない。休憩中に皆さんと会っているが、それで充分機能している。ただしリーズバー グは会場が狭いので、どのようにするかは検討しなくてはならない。利害関係者との会見を終了近くに持ってくることはできない。他の交渉担当官たち はまとめの段階に入り、引き揚げる用意をしているためだ。会見は、交渉からいったん距離を置いて、本当に重要な事柄を共有する方が役に立つと思 う。
質問:カナダとメキシコについて意見を聴取するプロセスはどのようなものか?
バーバラ:連邦公報の公示が出されている意見の募集は9月4日まで。9月の21日と24日に2回公聴会を開く。詳細は私たちのサイトに掲載されている。
質問‐マイク(アメリカン大学):リーズバーグで議論されるのは知的所有権の章のどの部分か?
バーバラ:具体的な条項を個々に見ていく予定。一般条項や著作権、それからおそらく商標や原産地表示にまで遡って行くかもしれない。
続き‐ブルク(パブリックシチズン)特許についての話し合いはないのだろうか?
バーバラ:その通りである。私たちの立場について皆さんや他の方々と話し合い、反映させる必要があるが、12月までにそれを実施する時間はないだ ろう。
質問‐ブルク(パブリックシチズン):今週ワシントンDCでAIDS国際会議が開催されているが…
バーバラ:ああ、そうですか??(皮肉を込めた口調で‐前日、1000人以上の活動家たちがUSTR前で抗議活動を行ったことを充分に知っている ということを明らかにするように)
続き-ブルク:そうです。できたら会議に来たTPP参加国からの活動家たちとUSTRの間で会合を企画したい。
バーバラ:そうしたいのだが、スケジュールによるでしょう。
【関連記事】
■ジェーン・ケルシー:新たな世代の自由貿易協定がアルコール政策に及ぼす影響(後編)(2012/04/18)
http://antitpp.at.webry.info/201204/article_3.html
■ローリー・ワラック:「また戻って再協議するのは非常に難しい」とワイゼル氏は説明(2012/07/12)
http://stoptppaction.blogspot.jp/2012/07/blog-post_12.html