今年の2月12日に下記の諸団体が出した声明を、九州大・大学院准教授の磯田 宏さんが仮訳と言う形で提供して下さいました。ご本人の快諾を得て、「STOP TPP!!市民アクション」の翻訳チ-ムで整理をして配信をするものです。
知財の分野は米国の医薬品業界の意向を受けて米通商代表部がまさに業界と連携して、適用機関や対象の拡大にやっきとなっていることにより難航し続けている分野です。
声明を読むと、米通商代表部が、適用期間や適用基準の一つとしての所得水準について途上国への配慮を小出しにするような形で、結局は保護期間の延長や対象の
拡大を実現しようとしていることが強く非難されています。言って見ればWTOプラス、既存の米国のFTA+、そして自らの2007年新貿易政策における途
上国配慮を骨抜きにしようとしていることが明らかにされています。
2014年2月12日
米通商代表部のTPP知的財産関連の章への提案はあらゆる人々の医薬品へのアクセスを脅かす
過去3年にわたり、下記に署名された諸団体、公衆衛生および開発関連専門家、バチカン、連邦議会議員、TPP協定交渉における米国の取引相手諸国は、行き過ぎた知的財産(IP)基準や追加基準の設定によって医薬品の独占権拡大を狙う米通商代表部(USTR)の取り組みが、公衆衛生(国民の健康)と医薬品のグローバル・アクセスに与える影響について、繰り返し懸念を表明してきた。
それに応えて2013年11月、TPP交渉のソルト・レイク・シティー・ラウンドで米貿易交渉官たちは、目下TPP協定交渉中の途上国に対して2007年新貿易政策(5月10日合意)に含まれる公衆衛生の柔軟な運用の一部を拡大適用すると主張し、TPP知的財産関連の章への「特別待遇手法」を提案した。
我々は、これらの方策がアジア太平洋全域で手頃な価格での医薬品入手を必要としている何百万人もの患者に公衆衛生上の影響を及ぼすこと、本提案が上述の「5月10日合意」に合致しているかのようになっていることを深く憂慮している。 米通商代表部は2011年以降、生命を脅かし診療アクセスを制限する提案を推し進め、TRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)に含まれる国際的合意を得たWTOの責務を超える内容を、すべてのTPP参加国に課そうとしている。「新たな」手法はこの提案を含んでいるだけでなく、途上国に住んでいる患者たちに緊急に医薬品を入手する必要があることも十分に認めていない。
「5月10日合意」では、過度な知的財産保護が途上国に及ぼす悪影響を認め、いまだ不十分ではあるものの正しい方向へと一歩を踏み出した。 この取り決めにより、米国とTPP交渉中の途上国(ペルー、コロンビア、パナマ)は、知的財産条項の柔軟な運用が可能になった。この条項は、特許リンケージ(薬剤登録と特許付与を連結させる事で薬事当局は後発薬品の販売承認を拒否できる仕組み)や特許期間の延長、治験データの独占権など、交渉で最も難航する条項である。 我々は、多数の人々が今も貧しい暮らしをしている貧困国が過度の知的財産保護による悪影響を受けないためのこうした「5月10日合意」の原則さえも、TPP協定交渉において貫かれていないことを懸念している。
とりわけ、米通商代表部による提案が、以下のように、国民の健康に不当な負担を課す可能性があることを懸念している。
米通商代表部は、先進国にとっても途上国にとっても、前代未聞の行き過ぎた「TRIPSプラス」知的財産保護を強要しようとしている。
米通商代表部は、TRIPS協定の下で国民の健康を守るために認められた柔軟性を制限し、参加国に対して医薬品へのアクセスを脅かすこれまでにない一層過酷な方策を実施させようとしている。 こうした方策は、患者たちの健康を犠牲にして医薬品企業の独占化を進めるものである。
米通商代表部の提案には、「5月10日合意」の下で勝ち取られた、医薬品へのアクセスを容易にする最低限の手段さえも含まれていない。
TPP協定は、ペルーやコロンビア、パナマとの米国貿易協定にも含まれておらず、「5月10日合意」でも検討されなかったような、これまでにない過酷な方策をおしつけている。 それにも関わらず、すべてのTPP参加国にはこの新たな規定を採択することが期待されている。
この新規定には、
●特許範囲が拡大するよう特許性基準を下げ、特許の「エバーグリーン化(先発医薬品の特許が切れても、小さな改変・改良を続けることで特許期間を延長し、独占し続ける戦略)」を促進させ、既存(先発)の医薬品入手までの期間が長期化する
●患者の治療法に対する特許の付与―外科手術法や診断法、内科治療法などの特許―により医療費が増大し、最善の医療、医学知識、医療的ケアの利用が制限される
●生物製剤のデータ独占期間が極端に長く、癌や肝炎などの治療で緊急に必要とされる手頃な価格のバイオ医薬品へのアクセスを阻害する、という内容が含まれている。
米通商代表部による特別待遇(差別化待遇)案は、「5月10日合意」を十分に取り入れておらず、適用範囲が不適切であり、また、規模においても容認し難いほど限定されている。
米通商代表部による提案の下では、裕福でない国々のごくわずかしか特別待遇を受ける資格が与えられず、長期的には、アクセスが制限されている知的財産保護を採択せざるを得ないことが予測される。
米通商代表部による「特別待遇案」とは、一部の発展途上国に対する知的財産関連の章(特許リンケージ、特許期間延長、特定の種類のデータ独占権)の有害な規定の適用が限定的になるというだけのことだ。 その上、この規定の諸条件は、「5月10日合意」の下で途上諸国に与えられた条件より制限される可能性がある。
さらに、特別基準が適用されるのは、これらの国々が一定の所得段階を越えるまでの間に限られる。
そして将来参加する可能性のある他の途上国には適用されない可能性もある。 対照的に、「5月10日合意」の下でペルーやコロンビア、パナマに提供された条件は永続的である。
我々が強調したいのは、TPP交渉がTPP参加国に住むあらゆる患者の健康ニーズと経済格差を、確実に考慮することの重要性だ。国際的に受け入れられた規範の下、国民の健康ニーズにとってもっとも適切な知的財産基準を実施するための、各国の自由且つ柔軟な対応を制限する取り組みは停止するよう米通商代表部に強く要請する。
さもないと、「高水準の21世紀型貿易協定」案は、公衆衛生(国民の健康)にとって低水準なものとなり、おそらく何百万人という人々の命を脅かすことになるだろう。
(仮訳:磯田 宏/翻訳チ-ム担当:小幡詩子/監修:廣内かおり)
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[i] Médecins Sans Frontières (MSF)/ Doctors Without Borders, “Governments in Trans-Pacific trade deal urged to reject political trade-offs harmful to access to medicines,” October 2013; Oxfam International, “US trade policy putting public health at risk”, March 2013; Public Citizen, “Leaked Documents Reveal Obama Administration Push for Internet Freedom Limits, Terms That Raise Drug Prices in Closed-Door Trade Talks, November 2013; HealthGAP, “US’s Proposed TPP Transition Period for Middle-Income Parties is Fools Gold,” November 2013; “Physicians and Scientists-in-Training Push for Access in TPP Negotiations,” November 2013; Knowledge Ecology International, “KEI analysis of Wikileaks lead of TPP IPR text, from August 30, 2013, November 2013; Statement of the Latin America & Caribean (LAC)-Global Alliance for Access to Medicines on the Trans-Pacific Partnership Agreement (TPP) & Access to Affordable Medicines, July 2013.
[ii] “UNITAID Concerned that TPP Negotiations Undermine Public Health Goals,” November 2013; International AIDS Society Statement from Françoise Barré-Sinoussi and Chris Beyrer on the Trans-Pacific Partnership Agreement and Access to medicines (TPP), July 2013; Knowledge Ecology International, “Joe Stiglitz writes open letter to TPP negotiators,” December 2013.
[iii] Knowledge Ecology International, “Vatican criticizes Trans Pacific Partnership: Holy See statement to 9th WTO Ministerial Conference in Bali,” December 2013.
[iv] Levin Statement on Trans-Pacific Partnership Negotiations, December 2013; Representative McDermott, “Worlds Apart; Making Sure Trade Policies Improve Global Health,” Roll Call, 31 May 2013; Representative Waxman sends letter to USTR expressing concerns for access to medicines, December 2013; Six Members of Congress Write to President Obama on TPP and Access to Health Care, December 2013; Five Ranking Members of House of Representative send letter to USTR expressing concerns for access to medicines in developing countries, January 2014.
[v] Inside U.S. Trade, “Leaked TPP IP Chapter Reveals Details of Conflicting Drug Proposals,” 15 November 2013.
[vi] United States Trade Representative, “Stakeholder Input Sharpens, Focuses U.S. Work on Pharmaceutical Intellectual Property Rights in the Trans-Pacific Partnership, November 2013.
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