2015年5月26日火曜日

米国パブリック・シチズンによるTPA法案分析「2002年ファーストトラックが復活」


4月16日に公表された米国パブリック・シチズンによるTPA法案の分析です。市民アクション翻訳チームが翻訳しました。

この分析は、今回上程されたTPA法案が2002年~07年のTPAおよび廃案となった2014年の法案の焼き直しにすぎないなど多岐にわたる指摘をしています。その内容は、議会の権能や要求を記しているものの、いったん妥結すれば他の参加国が同意しなければ日程上も行使する条件の無いもので、貿易協定に関する憲法上の議会の権限を奪うものでしかなく、また一部の新たな内容もそれを担保する措置が盛り込まれていないことなどを批判しています。そして実際に、過去の貿易協定では結局議会の要求は考慮もされず、協定に盛り込まれることはなかったとしています。さらに透明性の点においても今回の法案は、過去の、例えば1988年ファーストトラックにおいて交渉経過などが都度公開され、議員や議会職員が自由に閲覧できたこと、必要な場合にファーストトラック権限をはく奪する場合の手続きなどに比較すれば不充分なものでしかない、と批判しています。
その上で、昨年来の米国議会の根強いTPA批判、現在も不透明な議会の情勢などから成立の可能性は低いと断じています。(2015年5月25日時点)
先に翻訳をして紹介した、米議会委員会によるTPA法案の節ごとの概要説明と合わせて読んでいただくのもよいと思います。
この間の米国議会での攻防、TPA法案の内容と取り扱われ方をフォロ-しながら、法案としての不充分さよりも、議会と行政府との関係、貿易協定の進められ方など民主主義の観点からは問題点だらけで抜本的な見直しがされてしかるべきであり、そのことは当然日本にも当てはまることを感じた次第です。(2015年5月25日:翻訳グループリーダー・近藤康男)(翻訳:清水 亮子/監修:廣内 かおり)

 
TPA法案分析:ハッチ法案で議会と人々から幅広く反対を受けた、意見の分かれる
2002年ファーストトラックが復活

 2015年のハッチ法案(ハッチ上院財政委員長主導のTPA法案)は、廃案となった2014年ファーストトラック法の文言の焼き直しであり、9120億ドルの貿易赤字、製造業における何百万人もの失業、公共の利益のための政策への攻撃をもたらしたものと同じ、破たんした貿易モデルの拡大版となる。

2015年4月16日】
本日(4月16日)上院財政委員会に提出されたハッチ・ファーストトラック法案は、ほとんど全ての民主党下院議員とかなりの数の共和党下院議員がすでに反対を表明している、意見の分かれるファーストトラック手続きを復活させるものである。
ハッチ・ファーストトラック法案の条文のほとんどは、2002年のファーストトラック法の焼き直しだった2014年のファーストトラック法案を一字一句複製している。
今回の法案は、祖父条項(※注)として、ほぼ合意に至っているTPPにファーストトラックを適用することを明示し、ファーストトラックの手続きの3~6年の延長を可能にしようとするものである。また、強制力を持つ通貨操作規制をTPPに盛り込むべきとする超党派でかつ上院・下院の垣根を越えた要求を、オバマ政権が却下した後でさえ、なお、この法案によって議会の憲法上の貿易権限を奪おうとするものである。
※注「祖父条項」:ある法律制定前に既に合意されている法律や既得権などが優先される。

本日上程された法案は、上院財政委員のオリン・ハッチ委員長(共和党、ユタ州)、下院歳入委員長ポール・ライアン(共和党、ウィスコンシン州)、上院財政委員会筆頭理事ロン・ワイデン(民主党、オレゴン州)が提案したものだが、下院民主党の提案者は一人もいなかった。
過去21年の間にこのようなファーストトラック権限が議会で承認されたのは2002~07年のもの一度しかない。1998年には、当時のビル・クリントン大統領のファーストトラックが71人の共和党議員と171人の民主党下院議員に反対され否決された。

本日上程の法案によって、以下のようなことが起こる可能性がある。

・行政府にいっそう強い権限が与えられ、貿易協定の相手国を一方的に選び、交渉を通じて協定の内容を決定し、署名し、妥結させることができるようになる。議会の交渉目的に適合するかどうかに関わらず、これらのことが全て、議会による協定内容承認のための採決前に可能となる。

・行政府には、ホワイトハウスが協定の施行のために「必要あるいは適切」と決定したあらゆる条項が盛り込まれた法律を作成する権限が与えられる。このような法律は、議会の通常の委員会による審議にかけられることはない。つまり今の政権と今後の政権は、ファーストトラック権限を伴う貿易協定の交渉において、思うがままの条項を盛り込むことが可能となる。

・両院とも90日以内の採決が求められる。議会の交渉目標に合うかどうかにかかわらず、いかなる修正も認められず、審議はそれぞれ20時間以内に制限される。   

新しい「高速道路の出口」を作るのではなく、過去のファーストトラック法案にあった実施不可能な条件と同じものを、この法案は文字通り複製している。つまり、ある協定をファーストトラックから除外する「手続き否認」の仕組みを使えなくするような条件である。それを実施する決議は、上院財政委員会と下院歳入委員会の両方で承認され、その後60日以内に両院で可決しなければならない。(Sec.6(b)(1-2)) この点に関するこの法案の新しい特徴は、新しい“協議と法案遵守“手続きであるが、この手続きは協定が署名・妥結されて初めて使うことができる。しかしこの時点では、協定の変更は、すべての交渉相手国が再交渉の再開と条文の変更に合意した場合のみ可能である(おそらくは米国の更なる譲歩をも引き出した後になるだろう)。(Sec. 6(b)(3-4))この手続きにおいては、ファーストトラックの要件からある協定を除外するには、60人の上院議員の承認が必要である(※注)。上院議員の単純過半数の「反対」票が、協定そのものに対して同じ効力を持つにも関わらず、である。これとは対照的に、1988年のファーストトラックは、下院歳入委員会と上院財政委員会のいずれかの単純過半数の採決で協定をファーストトラックの要件から除外することが出来、かつ本会議での採決をしなくてもできるようにしている。そして、そのような否認行為は、大統領が貿易協定に署名・妥結する前に可能とされていた。 (19 USC 2903(c)(2)(B))
※注「60人」は単純過半数の50票以上である。
※注“協議と法案遵守“手続き:TPA法案の第6節は大統領が法案に定めたいくつかの条項を遵守しなかった場合、議会がファースト権限手続きを撤回出来ることについて定めている。

ハッチ法案の分析: 中心的な条項は2002年ファーストトラックと同一
2014年ハッチ・キャンプ・ボーカス・ファーストトラック法案と同様に、今回の2015年のハッチ法案は2002年に承認され2007年に失効したファーストトラックに含まれた手続きを複製している。

大統領には、一方的に交渉相手を選び、ファーストトラック手続きの適用される協定の交渉を始める権限が与えられる。2002年のファーストトラックと同様に、今回のハッチ法案では、この権限には形式的な協議、及び交渉が始まる90日前(休日を含む)に議会に通告するという条件がついているだけだ。2002年ファーストトラックを複製しており、この法案は、どの交渉相手国に対してファーストトラックによる対応が開始されるか選択する役割を議会に与えていない。

大統領は協定の内容を一方的に左右する権限を与えられるだろう。2002年ファーストトラックと同様、今回のハッチ法案にある議会の定めた貿易交渉の目的を強制することができない。米国の交渉担当者たちが交渉目的のリストを手にしているかどうかにかかわらず、このハッチ法案では、議会が採決する前に貿易協定に署名・妥結する権限を大統領に与ることになる。そしてその際、行政府が協定を実施するための法律を立案出来ること、90日以内に上院と下院で採決されること、修正は一切修正が認められないこと、最長で20時間しか審議の時間がないことは保証済みである。 (Sec.3(b)

民主党も共和党の大統領どちらも歴史的にファーストトラックに盛り込まれた交渉目的を無視してきた。北米自由貿易協定(NAFTA)と世界貿易機関(WTO)の設立のために使われた1988年ファーストトラックには、労働条件に関する交渉目的が含まれていたが、どちらの協定にもそのような条項は盛り込まれなかった。2002年ファーストトラックには、優先事項に通貨操作に対応する仕組みが挙げられたが、このファーストトラック権限のもとで締結されたいかなる協定にもそのような文言は盛り込まれなかった。

大統領には、形式的な協議と暦日90日の事前通告だけを条件とする簡略化された検討で、協定に署名・妥結する権限が与えられる。(Sec. 3(b) and 6(a)) 行政府だけが、交渉がいつ「決着した」かを決定できる。今回のハッチ法案にある議会の「協議」の仕組みは、協定に署名する前に、それが議会の定めた交渉目的に合うものかを認証する何の権限も仕組みも議会に与えていない。

大統領には、署名した協定を実施するための広範囲な法律を立案して、検討にかける権限が与えられるだろう。(Sec. 3(b)) 2002年ファーストトラックのように、このような法律は、議会の委員会による最終審議と修正にかけることになる。2002年ファーストトラックはこの(協定施行のための)法律について、大統領が「そのような貿易協定を実施するために必要あるいは適切とみなす場合は、米国の法律にあらゆる変更を盛り込むことができる」と書かれている。 (19 USC 3803(b)(3)(B)(ii)) 実際、ファーストトラック権限のこの部分に「適切な」という文言を入れたことは、これまでも議論を呼んでいるところである。行政府に多大な自由裁量権を与え、議会が協定の実施にとって必要だと考えるか否かに関わらず、既存の米国の法律を変更できるようなるためである。実際に、「適切な」という文言によって、共和党政権においても民主党政権においても、委員会の最終審議を避けて通り、本会議での修正も受けることなく、本筋ではないような変更を既存の米国の法律に加えることを可能にしてきた。ハッチ法案では、「適切な」という文言を削除する替わりに、2002年ファーストトラックにあった「必要あるいは適切」の文言の前に「厳格に」という無用な修飾語を加えている。 (Sec.3(b)(3)(B)(ii)) 2002年ファーストトラックと同様、実施法案に行き過ぎた条項を盛り込むことに対して異議を申し立てるための議事手続きやその他の仕組みは皆無である。

2002年ファーストトラックと同様、今回のハッチ法案は下院に対して、そのような実施法案について議会開催日60日以内に採決することを要求し、上院ではその後30日以内に採決することを求めている。

2002年ファーストトラックと同じく、今回のハッチ法案では、実施法案について全く修正を認めず、上院・下院での討論の時間は20時間しか許されない。そして上院を含め採決は、単純過半数で可決される (Sec. 3(b)(3)(A))

今回のハッチ法案には、2002年ファーストトラック権限にはなかった交渉目的が含まれる。それらの多くは2014年法案にも含まれていた。しかしながら、この法案で改めて制定しようとしているファーストトラックの内容には、これらの交渉目的を強制する力が全く保証されていない。

本日上程された法案には、人権に関連する交渉目的が盛り込まれている。「国際的に認められた人権尊重の促進」である。 (Sec. 2(a)(11))  
しかし法案は基本的なファーストトラックの内容を変更していないので、大統領はやはり一方的に貿易相手国として深刻な人権侵害を行っている国を選び、交渉を開始し、交渉を決着させ、人権侵害を行っている政府との貿易協定に署名・妥結することができ、議会にはそれを止めるよう大統領に要求する機会は与えられてない。
目的にかなっているかどうかの妥当性を判断するファーストトラックの手続きに加えて、「新しい」ものとして宣伝されている今回のハッチ法案の交渉目的のなかには、実は2014年法案と全く同じものがあり、それは2002年ファーストトラックでも言及されている。たとえば2002年ファーストトラックには、以下のような通貨措置が含まれていた。「貿易協定加盟国の間に、著しくかつ予測しなかった通貨の動きによる貿易上の結果が起きていないか調査し、かつ外国の政府が国際貿易において競争上の優位性を強化するために自国通貨の操作に関与していないか詳細に調査するための協議の仕組みの構築に努める。」(19 USC 3802(c)(12)) 今回のハッチ法案で「新しい」と言われる条文は、2014年法案にあったものを一言一句複製したものだ。「通貨に関する慣行に関する米国の主要な交渉目的は、米国の貿易協定の相手国が、有効な国際収支の調整を妨げるためあるいは不公平な貿易上の優位性を獲得するために為替レートを操作することを、協調のための仕組み、強制力のあるルール、報告、監視、透明性、その他の適切な方法を通じて、回避することにある。」(Sec. 2(b)(11))仮に議会がこの貿易交渉の目的が満たされることを担保する権限を持っていたとしても、この貿易交渉の目的の文言そのものは、ファーストトラック措置を有するTPPその他の貿易協定の中に通貨操作に関する強制力ある規制を盛り込むことを求めてはいない。両院の超党派の過半数の議員からTPPに通貨操作の強制力ある規制を盛り込むべきと要望があるにもかかわらず、今回のハッチ法案の交渉目的は、ファーストトラックを伴うTPPやその他の協定のための、いくつかの拘束力のない選択肢のひとつとして「執行可能なルール」を挙げているにすぎない。

今回の法案における労働と環境に関する交渉目的は、2014年ファーストトラック法案の複製である。2014年ファーストトラック法案の交渉目的は、「2007年5月10日合意」の条項を想起させるものであり、政府の報告書によると効果がないことが判明している。(Sec. 2(b)(10)) 「5月10日合意」の条項が、2002年ファーストトラックの労働に関する貿易目的の範囲を越えている一方で、2014年11月に公表された米国連邦議会行政監査局(GAO)の報告書によれば、調査対象となった5つの自由貿易協定(FTA)の相手国において、FTA協定に「5月10日合意」の労働の条項が盛り込まれている場合もいない場合も含め、広範囲な労働権侵害が確認された。
※注「2007年5月10日合意」:2007年5月10付けの貿易に関する方針についての超党派合意

透明性の拡大ともてはやされている条項は、実のところ、議会職員が貿易協定条文の草案を見るためには機密情報の閲覧許可が必要であるという、受け入れがたい慣行の法的根拠となるようなものであり、ブッシュ政権の貿易交渉でみられた透明性の水準にさえ達していない。

今回のハッチ法案は、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュの両政権下の米国通商代表部(USTR)の過去のやり方にお墨付きを与えるものにすぎない。この法案は、貿易協定が、国家安全保障に関わる機密取扱許可の対象であることを正式に指定し、議会職員が機密取扱許可を受けなければいかなる貿易協定の草案も閲覧できなくするような指針の策定をUSTRに求めている。今回のハッチ法案の他の「透明性」条項は、オバマ政権が異例なまでに透明性を後退させる前の、クリントン政権とブッシュ政権下の状況に戻るにすぎない。例えばNAFTAの交渉の際には、それぞれの交渉会合の後に国会内の機密確保がしっかりとした部屋にNAFTA協定を構成する全条文の最新版が置かれ、議員はそれを自由に閲覧できた。2013年夏、オバマ政権は、TPP条文の草案の閲覧を求める議員からの高まる圧力についに応え、議員が要求した章だけは閲覧できるようになったが、議会職員が(たとえ機密取扱の審査済みでも)同席することも、メモをとることも許されなかった。議員の閲覧がブッシュ政権下と同じ程度に戻っただけで、一般の人や報道関係者が貿易協定の草案を目にすることができないとは、とても褒められた話ではない。(Sec. 4(a)(3))

一般の人々に対する透明性について、今回のハッチ法案は実にブッシュ政権の公開性にすら達していない。ブッシュ政権下の米州自由貿易地域の交渉の際、USTRは各種の交渉中のものを含む条文の草案を誰でも読めるようにUSTRのウェブサイトに公開していた。このハッチ法案には、ファーストトラックを付与された貿易協定の条文の草案を一般に公開するよう求める内容は何も盛り込まれていない。新しい条項では、USTRに対して貿易協定条文のウェブ公開を署名60日前までに求めているが、よく読むとこのタイミングは、協定が仮調印され条文の変更が締め切られた30日後となり、人々や議会が変更を要求するには遅すぎる段階になって初めて条文が公開されることになるのである。

「議会による監督の強化」ともてはやされているものは実際、2002年議会監督グループを「交渉に関する下院助言グループ」および「交渉に関する上院助言グループ」と改名したものにすぎない。

2002年ファーストトラックは、議会幹部たちに指名された議員からなる議会監督グループ(COG)を設置し、そのグループの議員はUSTRから交渉の状況について特別な説明を受け、助言者として交渉に出席することができた。このハッチ法案はCOGを改名して「交渉に関する下院助言グループ」および「交渉に関する上院助言グループ」とし、上院と下院の共同活動と説明している。しかし、議会助言者グループの任命手続きと両院の貿易協議グループの役割の範囲は、2002年ファーストトラックに盛り込まれていたものと同様のものである。そしてまさにこの文言と同じものが、2014年法案にも盛り込まれていた。(Sec. 4(c))    

今回のハッチ法案はUSTRに対し、議会、一般の人々、及び民間部門の助言者との協議のための指針を作成するよう指示している。しかし実際にはこの条項は単に、USTRがこれらの利害関係者との関係をどのように持つのか、あるいは持たないのかを、文書化することを求めているにすぎない。 (Sec. 4(a)(3), Sec. 4(b)(3), Sec. 4(d) and Sec. 4(e))

今回のハッチ法案が第114回議会を通過する公算は低い

本日上程されたハッチ法案は、2014年1月9日下院に提案されたとたんに否決されたハッチ・キャンプ・ボーカス法案に、ほんの細かな修正をしたものにすぎない。ハッチ・キャンプ・ボーカス法案を支持した下院民主党議員は、201人中8人で、文字通り一握りしかいなかった。そして下院共和党議員のうち今回のハッチ法案に「賛成」票を投じるのは、100人に満たないだろう。一方で、2013年にファーストトラックに反対する書簡に署名した議員が27名おり、そのうち20名は再選されて第114回国会に戻ってきている。だからこそ、2014年のハッチ・キャンプ・ボーカス法案は本会議での採決にかけられることはなかったのである。2014年の選挙でも、下院共和党幹部の計算は変わらなかった。2015年1月、ジョン・ベイナー下院議長(共和党・オハイオ州)は、ファーストトラック法案が下院を通過するには、民主党の揺るぎない賛成票が50票必要と述べた。

新人の民主党下院議員17人のうち14人が、議員になって2ヶ月と経たないうちにファーストトラックに反対あるいは懸念を示す書簡に署名した(15人のうち12人が2014年11月の選挙で当選し、2人は2014年の補欠選挙で当選した)。ファーストトラックについて立場を公にしないようオバマ政権から強い圧力がかかっているにもかかわらず、このようなことが起きたのである。そして、過去の議会とは対照的に、かなりの数の共和党新人議員が、企業の働きかけをよそにファーストトラック支持表明を拒んでいる。

2013年の一連の書簡は、2002年ファーストトラックの委任の仕組みに対する幅広い反対を示していたが、今回のハッチ法案はそれを復活させるかもしれない。民主党議員151人がオバマ大統領にあてて送った書簡は、ファーストトラック権限に反対し、貿易協定の交渉と承認のための新たな仕組みの創設を求めた。27人の共和党員もまた、オバマ大統領あての2通の書簡のなかで、ファーストトラック反対を表明した。そして下院歳入委員会の委員を務める民主党議員のほとんどが、共同で追加の書簡を送り、古いファーストトラック手続きがほとんど支持されていないと記した。

本日上程された法案は、ファーストトラックとTPPに対する反対が人々の間で幅広く高まっているにもかかわらず提案された。2015年にワシントンポストとNBCニュースが行った超党派の世論調査によれば、アメリカ人の75%がTPPを拒否あるいは延期すべきと答えている。ここ数週間で、メリーランド、オレゴン、ワシントン、コネチカット、コロラド、その他の州の有権者たちがファーストトラックに抗議し、過去のファーストトラックが地域の雇用、中小企業、農家にもたらした壊滅的影響について訴えている。最近のデータによれば、過去の同様の貿易協定によって既に米国は1兆ドルの貿易赤字という危機的状況に立たさされ、製造業における500万人のアメリカ人の雇用が奪われ、米国における所得の不平等が拡大している。

このハッチ法案はTPP、米国とEU間の環大西洋自由貿易協定(TAFTA)、新サービス協定(TISA)にも祖父条項を適用し、新たな法律の適用を免除している。(Sec. 7)TPPとTAFTAのためのファーストトラックは、特に議論になるところだ。これらの協定には、特許、著作権、金融規制、エネルギー政策、政府調達、食の安全などの分野が含まれ、このような配慮を要する非貿易事項に対する議会や議員の政策の維持あるいは制定を制約しているからだ。ファーストトラックは1970年代に設計されたものであり、そのころは、貿易交渉は関税、数量割り当てなどに狭く限定され、今日の協定のように網羅的に幅広い非貿易的政策が含まれるようなことはなかった。

ファーストトラックは特異な存在である。過去21年で有効であったのは5年にすぎない。

民主党の大統領も共和党の大統領も、ニクソン時代のファーストトラックの仕組みを通じて、憲法上の貿易権限を大統領に委任するよう、議会の説得に躍起になってきた。ファーストトラックが実施されたのは、NAFTAの議会通過とWTO設立協定以降の21年のうち5年間にすぎない(2002年~2007年)。

ビル・クリントン大統領の2期目に、ファーストトラック権限を獲得しようと2年間にわたって取り組んだが、1998年に171人の民主党議員に加えて、当時の共和党ニュート・ギングリッチッチ下院議長に強く抵抗した71人の共和党議員が反対し、上院で否決された。クリントンは在任8年間のうち6年間はファーストトラックを持っていなかったが、それでも100以上の貿易協定を実施した。

ジョージ・W・ブッシュ大統領は、2年という時間と膨大な政治的資本をつぎ込み、2002年~2007年のファーストトラックの権限を獲得した。それは、共和党が支配する下院を一票差で通過し、2007年には失効した。新たにファーストトラック権限を獲得しようとしたブッシュの努力は、ブッシュが在任中に本会議の採決にかけられるところまで進むに足る支持を得ることはなかった。
(翻訳:清水 亮子/監修:廣内 かおり)

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