2015年7月18日土曜日

ウォーターズ議員、オバマ大統領に米国金融改革をTPP協定から除外するよう訴える

1ヶ月ほど前のものでかつ短文ですが、簡潔でかつ力強い、米下院金融委員会筆頭理事である民主党ウォーターズ議員からオバマ大統領に宛てた書簡を「STOP TPP!! 市民アクション」翻訳チームが訳しました。

金融が実体経済を超えて肥大化する中で、ひとたび金融システムが危機に見舞われると世界の経済に深刻な影響を与えることは、98年アジア危機、07年からのリーマンショックでも明らかです。TPPの金融サービスの内容は余り表に出てきていませんが、規制緩和・内外無差別の論理から想定される内容は、経済的には知財や市場アクセス以上に深刻な影響をもたらす危うさを秘めているものと思います。

TPPの金融サービスの章や投資におけるISDSが、金融システムの安定を担保するための途上国などにおける金融規制や、金融の健全性や安全性確保により国際的な金融危機に対応するための各国の金融制度改革を台無しにすることが懸念されています。
TPPを主導する米国でもこの7月21日からボルカー・ルールが実施されます。米国では規制緩和が進む中1999年にグラス・スティーガル法を廃止、銀行がリスクの潜む自己勘定での取引、投資銀行業務を出来るようにしました。ところが07年からの金融危機で銀行の自己勘定取引が巨額の損失を出し、ボルカー氏が預金を扱う銀行の高リスク業務を禁じる規制を提案、ドッド・フランク金融規制改革法に盛り込まれました。この法規制でさえ不充分との声もある中で、TPP協定の曖昧な規定ではドッド・フランク金融規制改革法やボルカー・ル-ルでさえ機能しなくなることが懸念されます。

エリザベス・ウォーレン上院議員のように「ボルカー・ルールは重要な一歩だがグラス・スティ-ガル法復活を求める」声もあります。TPPは、アジア金融危機、リーマンショックの再来を放置せよと言っているようなものです。(翻訳:小幡 詩子/監修:廣内 かおり)

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ウォーターズ議員、オバマ大統領に米国金融改革をTPP協定から除外するよう訴える

ワシントンDC6月5日―ホワイトハウスは、参加12か国から成るTPP(環太平洋経済連携協定)交渉が妥結できるよう連邦議会に対してTPA(貿易促進権限)を強く求めているが、昨日、マクシーン・ウォーターズ下院議員(カリフォルニア州選出の民主党下院金融委員会筆頭理事)は、TPP協定によって、ドッド・フランク:ウォール街改革及び消費者保護法の一環として可決されたものを含む、きわめて重要な金融改革が後退するとの懸念を表明した。

オバマ大統領宛ての書簡の中で民主党首席議員として、米国のさまざまな貿易協定におけるいわゆる“プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”条項における解釈上の不明瞭性及び限界を強調した。 本条項は、各国政府に対し、金融の健全性を保つための金融政策を実施する政策的余地を与えることを狙いとしている。 これに対しウォーターズ議員は、多くの法学者や貿易政策専門家の間では本条項の文言が曖昧且つ不明確で、今日まで検証もされていないとの見方が強いと指摘した。

ウォーターズ議員は書簡の中で、「今春、マイケル・フロマン米通商代表が下院民主党執行部と会談した際、現在のTPP協定案では金融規制の政策的余地が制限される可能性があるのではないか、という我々の多くが持つ懸念を退けた」と記している。 さらに「この問題に対する現政権の自信のほどを歓迎する一方で、残念ながら私は、この貿易協定の文言、とりわけ“プルデンシャル(健全性保全上の)例外”を見る限り、この自信に疑念を感じざるを得ない」と続けている。

またウォーターズ議員は書簡で、“ISDS(投資家対国家間紛争解決)”の仕組みを採り入れたことに、特に懸念を表明した。 ISDSは、外国人投資家に対し、“期待”した投資の成果が得られないとの理由で、あらゆる金融規制や措置について民間仲裁委員会の場で、直接アメリカ政府に異議を唱える権利を与えている。

ウォーターズ筆頭理事は、消費者を保護し金融システムの安定性をはかるために制定された改革の真意が、仲裁委員会によって損なわれることになり得る、と懸念を表明した。 さらに、オバマ大統領に対し、TPPの投資条項が金融政策に適用されないよう強く要請した。

「金融制度全体にかかわる重要事項-つまり国際金融システムの安全性及び安定性の問題―に我々が日々取り組んでいるなかで、昨今ますます異論が噴出している、その場限りの民間仲裁委員による投資の審査に委ねられる、曖昧な“プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”を信頼するというのは、あまりに見当違いであるように思える」とウォーターズ議員は付け加えた。

書簡の全文は以下の通り。
6月4日 2015年

親愛なる大統領

過去24年間、下院金融委員会の委員として、また現筆頭理事として申し上げますが、グローバル化のなかでも特に困難な局面に対して、当委員会は幾度も責任ある取り組み方法を策定する先導的役割を担ってきました―例えば、1990年代後半のアジア金融危機に対応する超党派の合意、また2007~2008年の国際金融危機への緊急且つ即時の対応、続いて米国の金融システムの抜本的改革にも取り組んで参りました。

我々は、長年にわたり、国際通貨基金(IMF)や世銀など世界経済を進める主要機関にも注力し、これらの国際機関の透明性、民主性を高め、最貧層の人々のニーズに呼応するための改革を後押してきました。

当委員会の民主党首席委員になって以来、私は、国際的な取り組みとして特に、懸案中のIMFにおける一連の出資・議決権・融資枠の割当額改革案を強く支持すること、 また最近では、米国企業が国際輸出市場において今後も公正に競争できるよう、米国輸出入銀行の再認可のためにあらゆる手を尽くしてきました。

また、グローバルな経済協力の重要性を認識した米国貿易政策を、公正性を推進するという手法で構築することにも携わってきました。そしてそのなかで、本書簡―金融規制とTPPの問題について―をしたためるに至った次第です。 マイケル・フロマン米通商代表は今春、下院民主党執行部と会談した際、TPP協定案が金融規制に向けた各国政府の政策立案の余地を制限することにもなり得る、という我々の多くがもつ懸念を退けました。

フロマン代表は、“プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”について-本規制は、米国の貿易協定において各国政府に対してプルデンシャル(金融の健全性保全)を理由とする規制を容認する旨の標準的条項ですがーこれに言及しながら、現政権なら連邦議会が制定を希望する新たな金融安定装置に加えて、2008年度の金融危機に対して可決された抜本的ドッド・フランク金融規制改革法を首尾よく守り抜ける、と我々を説得しようと努めました。

ドッド・フランク金融規制改革法は、実際、本質的に金融の健全性を保全するものであると私は認めており、この問題に対する現政権の自信のほどを歓迎します。一方で、残念ながら私は、米国の貿易協定の文言、とりわけ“プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”を見る限り、この自信に疑念を感じざるを得ません。

まず、ご存じの様に“プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”が有している意味、範囲、適用については、法学者や貿易関連専門家らがこれまで活発に議論してきました。 専門家の中には、この例外の文言で金融の健全性を保つための金融規制を十分に守ることができると信じている人もいますが、殆どはこの文言が、精一杯解釈に努めたとしても、曖昧なものであると結論づけています。 また“プルデンシャル”という用語は米国の貿易協定においてどこにも定義されておらず、WTOにおいても同様です。 例外という用語が紛争処理委員会によっとどのように解釈されうるのか、様々な可能性の余地を作り出すことが懸念されます。

さらに、“プルデンシャル”という用語は時間及び文脈と共に変化するものです。 このように基盤が変化することは、紛争処理委員会で例外の適用がいかに解釈され得るのかを予測しようとしている、各国政府にとっても不確実性を生み出します。 “プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”に関してWTOで裁定されたことがなく、それゆえ公的記録には本条項の公式の解釈はないという事実からも、この不確実性はますます高くなります。

しかしながら、最も重要な点は、異議を申し立てられた金融政策もしくは政府の措置が正当な“プルデンシャル(金融の健全性保全)”を理由とするものなのか、そして“プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”によって実際にその金融政策や政府の措置が保護されるのか否かの判断が、最終的に民間の国際仲裁委員会によって下されるところにあります。 現在提案されている様に、TPP協定ではISDS(投資家対国家間紛争解決)を通じて、金融規制に対して他国の政府のみならず個々の金融機関からも異議申し立てを容認することになっています。 ISDS法廷はいかなる政府当局からも独立して開廷され、下される採決の多くは予測不可能であり、判例にも縛られず、実際上控訴に晒されることもありません。

金融制度全体にかかわる重要事項-つまり国際金融システムの安全性及び安定性の問題―に我々が日々取り組んでいるなかで、昨今ますます異論が噴出している、その場限りの民間仲裁委員による投資の審査に委ねられる、曖昧な“プルデンシャル(金融の健全性保全上の)例外”を信頼するというのは、あまりに見当違いであるように思えます。

一般論として、私は、ISDSを米国の貿易協定に採り入れることに対し強い懸念を抱いています。 しかし少なくとも、ISDSを含めTPP投資条項は金融政策には適用されないようにすることを大統領に強く訴えたいと思います。 そうすれば、消費者を守り、金融システムの安定性を維持しようと懸命に闘ってきた我々の取り組みを後退させることにも決してならないでしょう。

下院金融委員会筆頭理事
マクシーン・ウォーターズ

以下は民主党下院ウォータ-ズ議員の大統領あて書簡及び6月5日付けのプレスリリースの英文原本へのリンク
http://democrats.financialservices.house.gov/news/documentsingle.aspx?DocumentID=399165

(翻訳:小幡 詩子/監修:廣内 かおり)

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