2015年9月12日土曜日

地理的表示に関するTPPの暫定合意 交渉済み協定を例外措置に

 地理的表示はEU諸国が有名ですが、日本でも昨年6月に地理的表示法(特定農産物等の名称の保護に関する法律)制定、本年5月に施行規則が策定されました。農水省も日本の農産物のブランドを守り育てるためにその推進に力を入れています。同時に農業の競争力を強化し持続させる上でもその普及を図ろうとしています。

 本件についての日本の報道はほぼ見られません。知的財産権としての地理的表示の問題は、左記のマウイでの閣僚会合で大筋合意がされています。ここでもEUとのEPA交渉で重要な課題になっているにも関わらず、日本は対EUの戦略との整合性をどこまで確保すべく主張を展開しているのかどうかが問われている筈ですが、あまりその辺りが聞こえてきません。
 Inside US Tradeが8月20日付で掲載しているものを「市民アクション」翻訳チームが翻訳しました。(2015年9月9日)(翻訳:池上 明/監修:廣内 かおり)

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地理的表示に関するTPPの暫定合意、交渉済みまたは発効済みの貿易協定を例外措置に
2015年8月20日付けInside US Trade Daily News

環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加国は、地理的表示(GI)の規定に関して先月、暫定合意に達した。消息筋によると、新しく地理的表示を保護しようとするTPP参加国は国内協議の手順を踏むまなければならないが、すでに発効済みまたは交渉済みの国際協定の下で保護されている地理的表示はその要件を免除される。

この暫定合意は、先月のマウイ閣僚会議で合意された。まだ条文のかたちにはなっていないが、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドにとって部分的な勝利だったと伝えられている。これらの国々は、地理的表示として、チーズやその他食品の名称を保護できるよう世界中の国々を巻き込んでいるEUの圧力に、TPPを通じて対抗しようとしてきた。

しかし、その勝利はあくまでも部分的でしかなかった。国によっては、すでに発効済みまたは交渉済みのEUとの自由貿易協定の下で保護されている地理的表示について、国内協議の要件を免除されることを確保できたからだ、と消息筋は述べている。

この免除措置の恩恵を受けるのはメキシコ、チリ、カナダとベトナムだろう。すでにEUとのFTAを発効済みであるか交渉済みだからだ。しかし日本とマレーシアはまだEUとの自由貿易を交渉中なので含まれない。

この国内協議の要件として、TPP参加国は地理的表示保護の適用を承認するための、明確でひらかれた手続き方法を提示することが求められる。そしてこの手続きには、利害関係のある人・政府が地理的表示保護指定に異議を申し立てる機会を与えることが含まれる。

また、ほかにも、結果的に部分的な勝利だったと考えられる側面がある。消息筋によれば、アメリカは2つの点で、以前に求めたものに比べ効力の弱い地理的表示規制に同意することになるという。

第1に、アメリカが求めていたのは、地理的表示保護の適用に異議申し立てができる国内協議の手続きを提供する義務に加えて、利害関係者が登録済みの地理的表示の取り消しを請求できるという手続きだった。

しかし、マウイでの暫定合意は、主に取り消しよりも異議申し立てを念頭においていると関係者は述べている。さらに、アメリカはまだ正式に取り消し手続きの案を取り下げてはいないが、最終的にはそうなる見込みが高いとも語った。

アメリカが妥協したと見られる第2の点は、地理的表示保護の適用を拒否するかまたは既存の地理的表示を取り消す具体的な根拠をTPPの条文のなかで記しておくべきだ、というアメリカの要求だ。

TPPの各参加国は、地理的表示承認時の国内協議の手続きを独自に整備できることになるだろうと、消息筋は述べた。同様に二人の米国業界筋も、異議申し立てと取り消しの根拠にかかる事項についてはアメリカが譲歩すると見ていることを示唆した。その一人によれば、アメリカの交渉担当者は、その主張を維持できないと数ヵ月前に明言していた。

これだけ明らかに妥協しているにもかかわらず、アメリカ産業界を代表する人々は、食品の一般名称と考えられる用語を使用し続けることを望む、生産者の権利を保護する方向へ確実に前進したとして、マウイの交渉結果を支持している模様だ。

同様に消息筋の一人は、アメリカはどの国が考えているよりも、TPPでは地理的表示について多くを得たと述べた。

マウイでの地理的表示に関する暫定合意は、7月30日(会議最終日の前日)の夜、閣僚がこの問題を検討したあとに出てきた。その時の消息筋によれば、閣僚たちが問題解決の方向性を交渉担当者に示し、夜遅くなって合意が成立したとのことだ。

TPP参加国は、他の国際協定の下で保護されている地理的表示をこの新しい規則から除外するかどうかについて、そしてその範囲について長く争ってきた。貿易担当大臣は2014年10月のシドニー閣僚会合でこの問題を検討したが、解決できなかった。

漏えいされた5月11日時点での知的所有権の章によれば、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドと、その3ヶ国の要求に反対していた日本、ベトナム、マレーシア、カナダ、メキシコ、チリとの間で、国際合意の下で保護されている地理的表示がどのように扱われなければならないかという点について、まだかなりの意見の相違があったことがうかがえる。

ノレッジ・エコロジー・インターナショナルによって漏えいされた草案によると、その時点での未解決事項の1つは、どの国際協定が国内協議要件を免除されるのかあるいはされないのかを決定する「線引きの期日」の問題であり、3つの選択肢が提示されていた。
*注:ノレッジ・エコロジ-KEI
   人類にとってより効率的で公平な知的資源の管理のあり方を研究しているNGO。

1番目の選択肢は、2013年12月31日以前に妥結したか大筋で合意した協定を免除するもので、アメリカが支持し、日本、ベトナム、マレーシア、メキシコ、チリが反対していた。

2番目は、TPP発効以前に妥結あるいは合意された協定を免除するものだ。消息筋が述べているように、マウイでの交渉結果はこれに則しているようにみえる。3番目は、TPP発効の3年後までに妥結する協定にまで、措置を拡大するものだ。

最初の選択肢では、2013年10月に大筋合意が発表されたカナダ-EU間の自由貿易協定CETAが含まれるが、8月4日に決着したベトナム-EU間の貿易協定は含まれない。

CETAの下では、カナダは145のEUの地理的表示を保護することに合意した。この中には、アメリカの酪農業界が一般名称だと主張して論争の的になっているチーズの名称も複数含まれている。EUとカナダは2013年10月に大筋合意を宣言したが、ほぼ2年後の今もまだ正式に交渉は妥結していない。

欧州委員会の8月4日の記録によれば、EUとの協定においてベトナムはパルミジャーノ・レッジャーノやロックフォールなどのチーズを含む食品・飲料で、169のEUの地理的表示を認めることに同意した。しかしそのリストはまだ公表されていない。チリとメキシコはEUとの貿易協定で、ワインと蒸留酒に関する特定のEUの地理的表示を保護することに同意した。協定はすでに発効しているが、消息筋によれば、これらの合意は、別の地理的表示が後日加えられることを認めている。

マウイで作成された暫定合意の中では、参加国で地理的表示が新たに加えられる場合もTPPの下で要求される国内協議手続きの対象になる、と消息筋は語った。

また漏えい草案によれば、地理的表示への異議申し立てまたは取り消しの具体的な根拠について意見の相違があることも明らかだ。 条文QQ.D.3には、TPP参加国が地理的表示の適用を拒否できる3つの根拠が明記されている。最初の2つはベトナムが反対しており、既存の商標または地理的表示との混同を引き起こす可能性がある場合に、地理的表示の適用は拒否され得ると唱っている。第3の根拠は、地理的表示が「その加盟国の領域において、関連商品の通称として、その国で広く使われている言葉で慣習的な」用語である場合だ。こうした文言は、ワイン類への適用に関する注書きを除いて、大方合意されているようだ。


*注:地理的表示とは
「ある商品に関し、その確立した品質、社会的評価その他の特性が当該商品の地理的原産地に主として帰せられる場合において、当該商品が加盟国の領域又はその領域内の地域若しくは地方を原産地とするものであることを特定する表示をいう」と規定されており、欧州各国は全般に地理的表示の保護に積極的であるが、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどの歴史の新しい国々は、ヨーロッパに比して、歴史的に伝統ある地名を由来とするブランド品を持たないために、消極的である。
(翻訳:池上 明/監修:廣内 かおり)

1 件のコメント:

  1. < 三橋貴明氏のコラムより >

    皆様、大変、お待たせいたしました。
     三橋貴明「畢生の問題作」である、「亡国の農協改革 ──日本の食料安保の解体を許すな」が、本日、発売になります。無事に刊行できて、本当に良かったです。

     ちなみに、畢生とは、「生涯」という意味になります。

     何度も予告いたしました通り、本書はすでに「全ての国会議員」に送付されています。

     正直、本書を普通に刊行できるとは思っていませんでした。何しろ、わたくしが「おはよう寺ちゃん活動中」で、
    「内容が内容だけに、結構、用心しています」
     と語った翌日、毎日新聞の「一面」で「政治資金:自民・山田俊男氏団体「脱法パーティー」5億円 補助金受給、JA系が購入」という記事が載ったのです。「違法パーティ」ならわかりますが、「脱法パーティ」とは何なのでしょうか? といいますか、「違法」ではないパーティの記事を、一面に載せる毎日新聞って・・・。

     要するに、反・農協改革潰しの一環だったのでしょうが、「そこまでやるか・・・」と、思ってしまいました。というわけで、本書刊行までは用心に用心を重ねた生活を送って参りました。
     農協改革関連の一連の法改正は、すでに成立してしまいましたが、まだ政省令の作業が残っています。今のところ、政省令も容赦なく「日本の食糧安全保障を壊す」形で行われそうな状況です。
     最悪の未来を提示しておきましょうか。

     今回の農協改革で、農協の理事の過半数が「経営者」となり、全農(全国農業協同組合連合会)の株式会社化に賛成する単位農協が増えていきます(全農の組合員は単位農協)。最終的に、五年後か十年後に全農が株式会社化され、譲渡制限も撤廃。結果、カーギルか中国のCOFCOに全農が買収され、我が国の食料流通の根幹が「外資化」する、と。

     単位農協は単位農協で、金融部門(農林中金とJA共済)について「代理店」の道を選択する農協が出現(今回の法改正で可能となりました)。というわけで、日本の農協の基本スタイルである「総合農協」が崩壊。
     また、農地法と農業委員会法が改正されたため、農業と無関係な外資系企業(GSとか、中国のファンドとか)までもが、農地を所有する農業生産法人「株式会社」に49.9%まで出資可能となります。事実上、我が国は外資が農地を持てる国になるのです。

     まさに、革命です。

     しかも、農地を商用地等に転用する許可を出す農業委員会の農業委員が、これまでの公選制(大抵は地元の農家が選ばれました)から、首長による任命制に変わります。農地を持った外資(あるいは日本の投資企業)は、首長が恣意的に選んだ農業委員たちの許可を得て、農地を商業地や工業地、住宅地に転用していくことが可能となります。

     すなわち、農地を利用した「不動産ビジネス」が盛んになります。当たり前ですが、農地が転用されれば、我が国の食料自給力は急落していきます。

     そして、次の法改正で准組合員の利用が規制され、農林中金やJA共済が株式会社化される。日本の総合農協方式は完全に崩壊し、しかも赤字の農協が増えていき、最終的には「農協解体」が実現することになります。

     もっとも、単に国内の法改正のみで「農協解体」を実現した場合、さらなる法改正で元に戻される可能性があります。だからこそ、TPPという国際協定で縛りをかけるのです。
     ちなみに、韓国は農協改革と米韓FTAが同時並行的に進み、農協が複数の株式会社に解体され、しかも米韓FTAという国際協定により「元に戻せない」という状況に至りました。我が国は、農協解体について「韓国の後を追っている」というわけでございます。

     珍しく、韓国が先行しているぜ! ヒャッ!ハーッ!!! という感じです。

     上記の詳しい話は、「亡国の農協改革 ──日本の食料安保の解体を許すな 」に書きましたが、問題はなぜこの種のラディカルな「構造改革」が、いとも簡単に通ってしまったのか、という点になります。自民党の国会議員や、農林水産省の官僚たちは何をやっていたのでしょうか。

     もちろん、本書ではその「答え」についても書きました。

     本書を刊行したことにより、またぞろ、
    「三橋は農協という既得権益の手先と化した」
     云々の批判が殺到することになるでしょう。残念ながら、わたくしは農協から頼まれて本書を書いたわけでもなければ、おカネをもらって書いたわけでもありません。無論、農協系の講演依頼はありますが、全体の5%未満です。といいますか、三橋はいかなる団体の依頼であろうとも、講演を断ることはまずありません。以前は民主党系はお断りしていましたが(2012年末まで)、最近は頼まれれば引き受けています。

     などと書くと、
    「三橋は民主党の手先と化した!」
     などと、頭が悪い連中が言ってくるわけですが、しつこいですがわたくしは自民党員です。別に、自民党に頼まれようが、民主党に頼まれようが、宗教系団体に頼まれようが、建設会社に頼まれようが、農協に頼まれようが、経済団体に頼まれようが、講演は引き受けますし(仕事だから)、基本的に同じ話しかしません。

     というか、わたくしが年に何回、講演をしていると思うのですか? 200回ですよ。その内の一回が民主党系だったとして、「三橋は民主党の・・・」などとやるなど、普通に頭のネジが十本ばかし外れていると思います。

     まあ、三橋を批判できれば何でも構わないのでしょうが、批判しても構わないので、本書「亡国の農協改革 ──日本の食料安保の解体を許すな 」はきちんと読んで下さい。そして、安倍政権の農協改革により、日本の食糧安全保障が危機に瀕しているという現実を知ってください。

     事実を知った上で、論評してください。本書を読みもしないで批判する人は、基本的に「人間の屑」認定させて頂きますので、ご承知おき下さいませ。何しろ、本書は三橋貴明「畢生の問題作」なのです。

     わたくしが人生を賭けて書いた一冊なのです。せめて、読んだ上で批判してくださるよう、心よりお願い申し上げます。

    「亡国の農協改革」
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