2015年8月9日日曜日

TPP閣僚会合報告(7月28〜31日)


マウイ島で開催されたTPP交渉閣僚会合に市民アクションの構成団体が参加しました。その訪問団の一つ「TPPに反対する人々の運動」の近藤康男さんからの詳細な報告です。閣僚会議終了直後、大筋合意取り付けに失敗した今回のハワイ会合の仕切り直し会合を8月末にも開催することが伝えられましたが、それも延期され、いつ開催できるかも明らかになっていません。いったい今回の閣僚会合の意味は何だったのか、これからの見通しはなどについても、近藤報告は触れていますので、ご一読ください。

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TPP閣僚会合報告
2015年7月28日(火)~31日(金) 米国ハワイ州マウイ島ウエスティンホテルにて開催

1.概要

〇ハワイでは大筋合意がまたもや先送りされ、次回会合をASEANに合わせてシンガポ-ルで8月日説が取り沙汰されているが、直近の報道では月内開催困難との見方も強くなっている。
現時点でルールについては25分野がほぼ決着、国有企業・原産地規則・法的制度的事項の3分野は近々決着、知財が次回までの最大の課題であり、これに物品市場アクセスが加わるといわれている。
〇5月に一旦予定されたものを延期し、最後の閣僚会合とする位置付けで、大筋合意を目指して開催された。
〇このため、実務的な問題をほぼ決着させ、難航分野における選択肢を閣僚の政治判断に委ねるべく、24~27日まで首席交渉官会合が先行して実施された。
首席交渉官会合では投資、国有企業、原産地規則など多くの分野で前進がみられたとのことである。
 
〇閣僚会合では生物製剤のデ-タ独占期間と地理的表示を残した知的財産権、2国間を中心とする物品市場アクセスが主に議論された。首席交渉官会合・閣僚会合の期間中精力的に2国間協議が並行して進められた。

〇しかし、最終日、13時半から予定されていた共同記者会見は、直前に4時に延期、ギリギリまで詰めの作業をしていたせいか、閣僚は会場に遅れて到着し、開始早々大筋合意の先送りが発表されることとなった。共同声明の配布も会場では無かったとのこと。
 読み上げられた内容も大詰めと言うよりは、TPPの意義を強調するキック・オフ大会のような内容だった。(以下はUSTR掲載英文共同声明と内閣府掲載日本語版へのリンク
https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases/2015/july/joint-statement-tpp-ministers 
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/08/150731_tpp_hawaii-statement.pdf 

①日米2国間協議先行型の協議故か、大詰めに来て乳製品・甘味資源など日・米・加・豪・NZなど複数の国の関わる物品市場アクセスでのNZの高水準の自由化への拘り、同様にNAFTAとマキラド-ラの枠組みで自動車生産大国となったメキシコにとっての原産地規則問題の重要性などを調整出来なかったこと、②途上国・豪・NZ対米国などとの知財分野での協議が思うほどに進まなかったこと、③それ故に結局各国とも最終カードを切るところまで踏み切れなかったことが原因とみられている。
〇米国議会・大統領選に関連した時間的制約、日本の参院選への影響などを睨み、8月中に再度閣僚会合開催を目指すとしたが、米国も時期を断言するまでには行かず、各国の報道でも楽観的論調は太宗を占めてはいないようだ。その中で日本の安倍首相の叱咤激励と甘利TPP担当相の「もう一回やれば必ず合意できる。各国ともその点の意思は共有できている」との発言が目立っている。
 会合終了後の報道では、NZグロ-サ-貿易相は「“2級”の合意はしない」と表明し、米国アーネスト大統領報道官も「基準に届かない合意には署名しない。米経済の最大の利益となる合意を追求するためなら遅れもいとわない」とオバマ大統領の意向を伝えている。
〇米国を始め政治的詰めの甘さが目立ち、交渉参加国に受け入れ難い内容を含むTPA(及び関連法案)とTPPとの間の矛盾が露呈した会合と言えよう。もしかしたら環太平洋における流動的な地政学的現実の中で、グロ-バル企業の利益・権能の最大化に収斂するTPPそのものが持つ限界なのかも知れない? 

〇各国ともこれが最後かということで農業団体、医薬品業界など、特に日本からはメディアを含め大勢が現地入りした。自民党・農業団体・経済団体は最終日に報告会を開催したが、異常なほどの自民党ペ-スの中、「サァ次は何としてでも大筋合意、そしてその後のTPP対策の政策・財政措置を!」の大合唱で閉会した。 

〇自民党からは、森山裕、西川公也、宮腰光寛、吉川貴盛、小野寺五典の各議員、民主党からは徳永エリ議員及び玉木雄一郎議員が現地入りした。

〇市民団体は、パブリック・シチズン(米国)、第3世界ネットワ-ク(スイス)、公衆衛生協会(豪州)、シェラ・クラブ(米国)、国境なき医師団(米国)、日本からは「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」(3名)・「TPPに反対する人々の運動」、「アジア太平洋資料センタ-」・「農民連」・「TPPって何?」が参加し、各国市民団体と3日間の記者会見を実施、29日の地元団体の抗議活動に参加した。

2.経過など 
プログラム
1)市民団体を中心に:プログラムは別紙に
〇初日を概要説明・問題提起とし、29日・30日で説明

〇閣僚交渉の予定が流動的で報道関係者はフォロ-に追われたこともあり、過去の会合の時と比べメディアの出席が少なかったのが残念だった。

①7月28日(火)10時半:マウイ島閣僚会合で何が問題となっているのか
〇山田正彦氏(元農水大臣、「違憲訴訟の会」言語団共同代表) 
 農産物、通貨条項、米国議会“承認手続き”、暮らしの中に広がる反対運動と安倍政権批判、などについて報告し、違憲訴訟についても言及
〇デボラ・グリ-ソン氏(豪州・ラトロ-プ大教授、公衆衛生協会)
 知財、特に医薬品や公的保健制度への影響
〇マ-ティ-・タウンセンド氏(米国シエラ・クラブハワイ代表)
 環境問題とTPPについて
〇ピ-タ-・メイバードック氏(米国パブリック・シチズン)
 知財、特に医薬品の問題から

②7月29日(水)10時半:TPP交渉の憲法との対立、東京地裁への提訴
〇山田正彦氏、三雲崇正氏(違憲訴訟弁護団、新宿区議会議員)

③7月29日午後:地元団体による抗議行動、記者会見、一斉にホラ貝を吹く人数のギネス記録への挑戦など。

④7月30日(木)10時半:TPPの及ぼす医薬品、保健制度への影響
〇ジュディット・ルイス・サンファン氏(米国・国境なき医師団)
〇デボラ・グリ-ソン氏(豪州・ラトロ-プ大教授、公衆衛生協会)
〇ピ-タ-・メイバードック氏(米国パブリック・シチズン)

2)内閣府政府説明会:7月29日15時~15時半!!(資料省略)
〇最も重要な段階での説明会が、たったの30分で、かつ今までに比べて最も内容の乏しいモノとなった。

①内閣府・渋谷審議官説明
〇物品市場アクセスと、ル-ルの難航分野である知財における医薬品のデ-タ保護期間問題を中心に協議をしているが、まとまるかどうか何とも言えない。医薬品デ-タ保護期間について、米国医薬品業界は開発投資の回収期間としての12年、後発医薬品中心の国は早期の普及と安価な医薬品に基本をおいて5年以下、日本は安全性審査のための期間として8年を考えているが、各国とも隔たりが大きい。物品市場アクセスではカナダが前向きな姿勢で交渉に出てきている。全体会合・2国間協議・事務レベル協議など並行的に進めている。
〇甘利大臣も28日午前中に豪州ロブ大臣、NZグロ-サ-大臣、午後は米国フロ-マン代表と協議の後、全体会合。全体会合では「この会合で合意する意志の共有」を強調。29日はベトナム、マレ-シア、シンガポ-ルと2国間協議をした。
〇各国閣僚ともまだ最後のカ-ドを切るところまで到達していない。31日13時半からの共同記者会見を予定している。

②質疑(質問のポイントのみ)
〇29日9時のウィキリ-クスの国有企業指針に関連して、国が関わっている農畜産関連団体、そこを通じた価格安定諸制度が影響・制約あるいはISDSに晒される懸念があること、そのことの深刻な日本農業への影響をどう考えるのか?
〇知的財産権の過剰な保護は医薬品以外でも文化的・社会的には後退とも言える。大筋合意としてまとめてもその後に未だ多くの課題を残すと考えられる。大筋合意あるいは最終合意とは具体的にどのような内容を指すのか?
〇大事な会合であり、29日の30分の説明会だけでは問題だ。後半で再度やるべきだ。国会決議を常に忘れずに交渉していると言うが、何を持って“守った”と考えているか?関税で妥協する代わりに対策を講じて再生産可能にするということではなく、関税で守った上で、その上で持続的な農業生産を発展させるべく政策を講じるということが、国会決議の正しい読み方ではないのか?
〇署名後の各国の発効手順、TPPの発効基準はどうなるのか?今回大筋合意に到達する場合はもう一度説明会を開いてその後の展開を説明して欲しい。

③渋谷審議官からの質問への回答
〇畜産。農業団体とは別途コミュニケ-ションを取っている。国会で承認いただける内容とすべく交渉をしている。
〇国有企業への優遇措置は、内外無差別であれば現在の制度・政策は何ら問題にはならない。また、その限りではISDSの対象とはならない。
〇医薬品関係についてのスタンスは、難病患者を救う開発の道を閉ざさない、途上国と先進国との格差・対立を作らない、安全性を損なわないなど“バランス“を基本に臨んでいる。著作権に関わる懸念も充分伺っている。
〇今回大筋合意になっても、実務レベルで残って詰める課題が多いはず。その意味で大筋合意。最終合意は確定条文に署名すること。
〇未だ議論になってないが米国の“承認手続き”のようなことにはならないのではないか?
〇仮に今回合意出来たら、メディア向けの詳しい説明をする。皆さんにも何らかの形で加わってもらうつもりだ。
〇「発効規定」は未だ整理されていない。

3)自民党議員団。業界団体報告会:7月31日夕刻{共同記者会見・甘利大臣記者会見後リッツ・カ-ルトンHにて} 
〇「国会決議遵守」を訴えた声もあったが、全体の雰囲気は、与党としての自民党と共に「大筋合意を前進させよう」「その後はしかりした財政措置を」の大合唱との印象。
〇配布資料(省略):自民党議員団「閣僚会合終了に当たっての声明」、経済同友会「TPP閣僚会合の閉幕に際して」、閣僚共同声明(英文・和文)

①政府・自民党出席者
〇森山 裕、西川公也、宮腰光寛、吉川貴盛議員ほか(発言者以外は出席未確認
一応よかった。TPP対策に取り組む。時期を失してはいけない。交渉団に感謝。
〇甘利 明経財・再生相、鶴岡公二首席交渉官ほか

②業界などからの出席
〇経済団体代表、農畜産団体代表、地方自治体関係者、その他業界団体代表など

③会場からの声
〇報告会実施に感謝。交渉団の尽力に感謝。国会決議・国益を意識した交渉と理解。
〇現地での個別説明や意見聴取の実施には特に感謝
〇安易な妥協を排して国会決議遵守を願う。
〇農協改革に取り組む。若い農家が希望を持って経営できることを期待する。地域の声も届いたと思う。

(4)閣僚共同記者会見(別室モニタ-から主要な回答部分のみを抜粋)
〇米国フロ-マン代表:全てが決着しないと何も決着出来ない。難航分野で実質的前進。
〇NZグロ-サ-大臣:乳製品は食べ物の中で常に最後に残される。意味のある帰結が大事だが、まだそれが何かは充分明らかではない。
〇豪州ロブ大臣:砂糖と乳製品でトレ-ドオフという捉え方はしていない。合意するということは双方に総体としてメリットがあるということだ。その意味では前進している。12ヶ国・世界のGDPの40%を占めるTPPで合意が出来ればビジネスのコスト・時間の大きな節約になる。
〇米国フロ-マン代表:(次回会合について)我々も実務者も継続的に協議を続ける。そして残る問題の解決に集中する。
〇日本・甘利大臣:(北米圏での日本の自動車の位置付けについて)TPPという経済圏でのバリュ-チェーンを作ることだ。それに向かって大きな前進が見られた。もう一回やれば全て決着するだろう。
〇米国フロ-マン代表:甘利大臣のおっしゃる通りだ。目標はこの地域での成長を実現し、雇用を増やすことだ。TPPは開かれたもので、この高い基準を達成できる国は参加出来るし、(シンガポ-ルなどでTPPへの期待値が下がっているというが)そのような経済圏である故に参加を希望する国、モメンタムも出てくる。
〇日本・甘利大臣:TPPは21世紀型のルールを目指している点、成長する生きたEPAである点が今までの経済連携と異なっている。WTOが頓挫しているだけに新たな世界標準になり得る。
〇メキシコ:我が国は世界で7位の自動車産業の国。重要であるだけに交渉でも拘っているのは確かだ。しかし交渉全体は前進し、いいところまで来ていると思う。 
〇カナダ:我々はTPPを妥結させるために来た。近く再開した時にも、この交渉を完了させる気持ちで臨む。
〇NZグローサ-大臣:NZが障害となっているという見方は受け入れ難い。NZはTPPの当初からのメンバ-で、小さな国だが乳製品は世界でも最大の輸出国で大切なものだ。我々は原則関税撤廃を目指しているがこれまで妥協も譲歩もしてきた。そして誠意を持って交渉している。

(5)甘利大臣記者会見(閣僚共同記者会見後。別室モニタ-から主要な回答部分のみ抜粋) 
以下は内閣府サイト掲載の記者会見概要URL⇒ 
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/08/150731_daijin_kaiken2.pdf 

〇ハワイでは多くの分野で合意が出来、難航分野も大きく前進した。ただ一部の国の間での物品市場アクセス、知財の一部で各国の利害対立が残り、合意には至らなかった。しかしもう一回やれば決着できると思っている。
〇時期を決めた方が段取りも決意も集中出来ると思うが、議長が慎重な判断をした。8月末にやろうという認識は共有されていると思う。
〇(臨時国会で審議を、と言った経過はあるが)次回で大筋合意が出来て、それからどの程度速く進められるか、米国での手順もあり、どの国会でやるかは政府が決めることになる。
〇(物品市場アクセス決着の道筋について)一部の国々の物品市場アクセスが進んでいないが、関係する国々がそれぞれ自覚を持つということだろう。
〇(交渉の進め方がよくなかったかどうか)最後になるとどうしても、少しでも自国の利害を確保する動きは出てくる。
〇(各国が最終の手の内を見せたかどうか)決着させようと言う気持ちで臨んだという感じは各国ともあった。
〇知財の周辺部分はかなり整理がついたが、中核的なところは、互いに超えられないところがあったようだ。次回にこれだけが残って全体を駄目にするということにはならないのではないか?
〇次回にまとまらないとなかなか日程的には厳しくなる。米国も手順など一定の判断・工夫をしてくるのではないか?

3.私的感想
(1)狭い意味での政治としては、オバマ大統領の政治基盤の脆弱さがTPAとTPPとの矛盾を交渉の場に持ち込み、加えて大統領・USTRの稚拙な政治的詰めが交渉合意に至らなかった大きな要因ではないか? 
〇TPAに縛られ米国は柔軟な妥協・譲歩が出来ない、各国にとってはTPAと関連法案は受け入れがたい内容を含んでいる。
〇米国政治の事情で論理的には不可能な日程と手順でTPP交渉が進められている。
 
(2)大きな政治的流れとの関連では、アジアの成長を取り込み、同時に、中国に対峙する枠組みを主導したいという日米の思惑が色濃いTPPは、好ましい新たな秩序を目指す上では、既に時代遅れではないのか? 
〇環太平洋における多様な発展と複雑な地政学的現実に対応出来ないばかりか、他の地域連携の枠組みとの利益相反が避けられないし、地域の不安定要因になりかねない。
〇グロ-バル企業の利益と権能の肥大化に収斂する協定は、政治的にも適正な制御を難しくする。
(3)日本の交渉力への疑問?
〇いくつかの国は譲れない一線をこれまでも明確にして交渉に臨んでいる。一方日本は譲歩の検討が先行しがちである。 

〇米国は、ウィキリ-クスの漏えいした業界とUSTRの親密なメ-ルから読み取れるように、業界は要求をぶつけ、知恵を提供し、時にはUSTRを前から引っ張り、あるいは、後ろから押して、一体となった交渉をしている。

 〇日本では交渉官は市民と没交渉、業界は政府・与党の土俵に上がってお願いをするだけで(経団連などは多少違うのかも知れないが)、総力戦になっていない。

 TPPはやはり、ジェイン・ケルシ-氏がいみじくも言った「異常な契約」のようだ。あるべき経済連携のあり方をあらためて考える時期に来ているのかもしれない。

※参考:8月末実質合意、11月半ばに妥結・署名とした場合の手順・想定される流れ
但し、TPA法案修正・成立前の内容を基に作成したものだが、手順については変わっていないと推測する。

8月末
閣僚会合で合意⇒条文作成・法的チェックの作業。TPAに基づき米議会に協定締結の意向を伝達(署名90日前に)
9月下旬
TPAにより妥結=署名60日前までに条文をUSTRのサイトに掲載

妥結=署名30日前までに成文の写しと必要な行政措置を議会に提供
11月下旬
APEC首脳会議に並行してTPPに署名⇒各国は国内手続きに。日本では臨時国会で審議。
年内
米国では署名後105日以内に国際貿易委員会の評価報告、実施法案を議会に提出⇒ここから審議が始まる。(評価作業は署名前にも開始か?)
審議は下院で60日以内、上院では+30日以内、両院で20時間以内
2016
1/2月~3月米大統領選予備選本格化(ス-パ-チュ-ズデイ)⇒71821日共和党大会、7月下旬民主党大会で大統領候補選出⇒118日投開票

(2015年8月5日(水)TPPに反対する人々の運動・近藤

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