2012年6月25日月曜日

世界の法律家100人以上がISD条項導入反対!


米国、オーストラリア、ニュージーランドなどの法律家ら100人以上が5月8日、TPP(環太平洋経済連携協定)に投資家・国家訴訟(ISD)条項を盛り込むことに反対する書簡を交渉参加国に送りました。

ISDは投資家が投資国の裁判所ではなく、第3の仲裁機関で紛争を解決できる制度です。先日発行された韓米FTAにも含まれ問題点が指摘されていました。

投資家と国家、その他の利害関係人の力の均衡を根本的に変えてしまう
この書簡では、「ISD条項」が関連各国の司法制度へ影響を及ぼし、法的紛争の公平な解決を危うくすると指摘しています。法的な視点からのTPP、ISD条項の問題点が見えてくる書簡をここに掲載します。(翻訳:猿田佐世)

▽ ▼ ▽

投資家国家間の紛争解決制度を拒否するよう求めるTPP交渉担当者への公開書簡

私たちはアジア・太平洋地域における学界、裁判所、弁護士会、立法、行政、ビジネス界、その他の分野に属する法律家です。私たちは、法律家として、現在進行中のTPPの交渉において検討されている投資と投資家国家間の紛争仲裁条項についての懸念を表明するためこの書簡をお送りします。

私たちはTPP全般については様々な考え方を有しています。しかし、私たちは、近年のいくつかのFTA条約および二国間投資協定(BIT)に含まれている海外投資家の保護や投資家国家仲裁制度を通じてのこれらの保護の履行について、TPPには同様の規定が設けられるべきではないという点について、一致した見解にあります。この制度の拡大は様々な関連各国の司法制度を脅かし、法的紛争の公平な解決を阻害するようなかたちで、投資家と国家、その他の利害関係人の力の均衡を根本的に変えてしまうと懸念するからです。

私たちは、オーストラリア政府が、TPPその他の将来の貿易協定における投資家国家間の紛争解決制度に従うことを望まないと述べたことに勇気づけられています。私たちはTPP交渉担当者に対し、オーストラリアだけでなく全ての国について投資家国家制度を除外するよう求めます。

私たちは法律家として、国籍を問わず全ての投資家が、政府との紛争も含め紛争の解決のために、公開・独立の司法制度へのアクセスが認められるべきであると考えています。私たちは、法の支配を強く支持します。私たちが上記の懸念を表明するのは、これらの文脈からです。

国際条約における投資家保護および投資家国家間の履行制度の表向きの目的は、国内司法制度が適切に機能していない国において、海外投資家の不動産や施設、備品などが政府から収用された際にこれら投資家に補償を得る手段を認めるべきというものでした。しかし、「(国際仲裁の)対象となる投資」の定義は不動産を大きく超える物となり、投資受入国の経済にその投資が貢献しているかどうかを問わず、広く、投機的な金融商品や、政府認可、政府調達、契約に基づく無形財産、知的財算、市場シェアなども含む物となっています。

と同時に、FTA条約の投資の章や二国間投資協定により認められる実質的な権利は大幅に拡張されてきており、また、国家に対して出された国際仲裁による裁定は、しばしば、投資協定の新しい文言を過度に拡張する解釈を含んでいます。これらの解釈の中のいくつかは、公的利益のために規制を設ける国家の主権に比べ、多国籍企業の財産や経済的利益の保護を優先するものです。

この制度下で出される裁定は、ますます、各受入国において憲法、法律や司法制度の下で国内の企業や投資家に認められている権利よりも、海外投資家に広範な権利を認めるようになってきています。いくつかの例においては、仲裁裁判は金銭的損害賠償の付与を超え、差止措置を認めてきました。この差止措置は法の激しい衝突を招いています。例えば、米国とエクアドル間の二国間投資協定の下でシェブロンがエクアドルに対して提起した事件において、近年の国際法廷の命令は、エクアドル政府に対し上訴審の判決の履行を停止するよう命じています。これは、憲法に基づく三権分立に反し、また米州人権条約により保護される権利の侵害でもあります。

これは、珍しい例ではありません。投資家の権利に対する侵害の可能性があるとして仲裁裁判の対象になると従前考えられていた政府行為の範囲には、NAFTA(北米自由貿易協定)の下で起こされたローウェン(Loewen)対アメリカ合衆国事件における管轄権についての200115日の決定が含まれています。この決定は、国内裁判所の機能や民事訴訟において現在有効である規則についても「(国際仲裁裁判の対象となる)措置」に含まれるとしています。仲裁裁判所は私契約に関する訴訟での陪審員の判断がNAFTAの投資家条項が適用される政府措置に当たると結論付けました。

また、投資家は法的救済の追及を少なくともまず受入国の国内裁判所においてすべきであるとする各国政府の決定を、投資家は最恵国待遇ルールを主張して迂回しようとしています。フィリップ・モリス・インターナショナル社の子会社は、ウルグアイとスイスの二ヵ国貿易協定に基づくある要件を逃れようとしています。同社はウルグアイの新しいタバコ包装法についての異議を唱え法廷で争おうとしていますが、その要件の下では、国際仲裁を提起する前に18カ月は国内裁判所を通じて争わねばならない、とされています。しかし、同社はそのような要件を伴わないウルグアイと第三国との間の二国間投資協定からの条項を主張し、その要件を回避しようとしているのです。
さらには、投資家国家間の紛争仲裁制度は、法律家が仲裁人と投資家の代理人との立場を順に入れ替わる制度となっており、これは、裁判官(仲裁人)の倫理として不適切なものです。この制度は、さらに、投資家でない訴訟当事者やその他の利害関係人が参加する権利を認めていません。また、透明性、一貫性、適正手続といった私たちの司法制度に共通する基本原理を満たしていません。現在の投資仲裁は、公正、独立なものではなく、また主権国家と私的な存在である投資家との間の紛争解決についてバランスを欠いたものです。

特に懸念されるのは、この制度が最後の拠り所としての選択肢とはなっておらず、この制度の利用が急激に増えているという点です。投資家国家間の権利履行制度を伴う二国間投資協定は1950年代から存在していましたが、1972年~2000年には、たったの約50件がそれにより解決されてきたのみでした。2000年以降、世界銀行の国際仲裁制度である国際紛争解決条約( ICSID)に基づく紛争のみでも173件の事件が解決に至っており、128件がさらに提訴されています。

大局的にこれを見てみると、1999年ころまでにはわずか69件が投資紛争解決国際センター(ICSID)に提訴されたにすぎなかったのですが、現在では、370件以上の事件が進行中であり、これは436%の増加率です。そしてこれは、投資紛争解決国際センター(ICSID)における投資家国家間の事件数のみに過ぎないのです。米国の結んだFTAと二ヵ国投資協定に基づくものだけで、投資家に対し計6.75億ドルが支払われてきており、そのうち70%は伝統的な政府徴用に対する異議申し立てではなく、政府の天然資源や環境政策に対する異議申し立てに関連するものです。タバコ会社もまた、「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」下における義務の履行のために政府が制定したタバコ規制政策に異議を唱えるために、投資家国家間の紛争解決制度を利用しています。

現在の制度における国際仲裁の対象となる投資や政府行為の拡張的定義、国内法を超えた投資家への本質的な権利の拡張的付与、国内裁判制度を回避するための同制度の利用の増加、そして、仲裁制度に固有の構造的問題、以上は、法の支配や公平性を蝕むものです。

私たちは、だからこそ、TPPの交渉に関わる全ての政府に対し、投資家国家間の紛争解決メカニズムを拒否し、国内法手続きの重要性を改めて主張して、オーストラリアの例に倣うよう求めます。


※英語原文「AN OPEN LETTER TO NEGOTIATORS OF THE TRANS-PACIFIC PARTNERSHIP URGING THE REJECTION OF INVESTOR-STATE DISPUTE SETTLEMENT

0 件のコメント:

コメントを投稿