2013年3月14日木曜日

FTA手続きは欠陥だらけ?!──タイの23市民団体が首相に投じた書簡

タイの市民団体23団体から首相に宛てたタイ・EUのFTA交渉開始にあたっての書簡を紹介します。タイはすでにTPPへの参加意向の表明をしており、今回のEUとのFTAもTPPに連なる内容を含んでいることが読みとれます。具体的な分野・条項に付いての市民社会の立ち位置を明らかにしており、私たちの反TPPの運動に対しても示唆を与えてくれます。(翻訳:田中久雄/監修:廣内かおり)

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2013年2月28日

タイ国首相インラック・シナワトラ(Yingluck Shinawatra)閣下


来たる3月6、7日、タイ・EU間自由貿易協定第1回会合の交渉のため、代表団とともに閣下がブリュッセル(ベルギー)を訪問されることに関し、また、この交渉を10回の会合、1年半以内で妥結して議会の承認を求め、一般特恵関税制度(GSP)が失効する2014年に間に合わせるという政府の早急なスケジュールに関し、FTAウオッチ(FTA Watch)、市民社会組織、学識者のグループ、市民団体、NPOを含む28団体はこれまで、政府関係機関と貴下の政府にわれわれの懸念と勧告を提言してきた。(※Generalized System of Preferences:輸出増・産業育成のため途上国からの輸入品に特恵税率を適用する制度)

タイ・EU自由貿易協定(FTA)は、これまでの他の自由貿易協定では議論されなかった問題が複数含まれるだろう。医薬品や生物多様性における知的所有権、海外投資の保護及び国家と民間セクターとの国際紛争解決のための仲裁、健康に有害な商品(アルコールやたばこなど)を含むすべての問題は、様々な局面で重大な影響を及ぼす。それゆえに、憲法第190章(Constitution’s Section 190)により、議会の承認と審議プロセスを踏むことが必要である。

しかしながら、これらすべての手続き、すなわち公聴会、交渉準備、交渉枠組みの起草、そして内閣と議会による審議は、欠陥だらけであり、交渉枠組みの内容も同様だった。長期にわたる社会への悪影響に関するいくつもの懸案事項や国家予算に及ぼす1,000億バーツの損失は無視された。むしろ政府は、一般特恵関税制度の失効に気を配っているが、それは短期的利益であり、しかもごくわずかの特権的企業グループに限られており、失効してもたかだか800億バーツの負担にすぎない。

議会の前で宣誓された貴下の国内政策に照らし、自由貿易協定によって利益を得る人たち、悪影響を受ける人たち、そして一般の人たち、それぞれにとって公正であることを認識することによって、国民全体がタイ・EU自由貿易協定から真の利益を確実に獲得する目的で、われわれはインラック・シナワトラ首相、並びにタイ・EU自由貿易協定のタイ側交渉団長Olarn Chaipravat氏に対し、タイ・EU自由貿易協定の交渉団が、次のような確固たる交渉の立場を社会的に約束することを求める。

1. タイ政府は、特許期間の延長(patent term extension)、情報の独占(data exclusivity)、国境措置(border measures)を含むTRIPSプラス(TRIPS-plus)条項として知られるWTO(世界貿易機関)のTRIPS(知的所有権の貿易に関する協定)よりも厳しい、知的所有権に関するタイ・EU自由貿易協定交渉の内容を受け入れてはならない。また、「生物の多様性とTRIPSに関する協定」(TRIPS Agreement and Convention on Biological Diversity)においてすでに織り込み済みであることから、現在の生物多様性保護法は変更なく存続されなければならない。

2.投資の章における国際紛争解決メカニズムを、公共的利益、環境保護、そして、公衆衛生、インフラ、安全保障についての政策を保護するための社会投資、政策実行及び立法に関する紛争に対して適用するべきではない。

3.天然資源、農業、養殖業、植物の繁殖及び食の安全に影響を及ぼす投資は、制限されなければならない。

4.アルコールとタバコは、交渉対象から外さなければならない。

5.各交渉会合の事前と事後に、全利害関係者が参加する協議を開催しなければならない。この協議会合において、交渉団は交渉における(政府の)立場と交渉の進捗状況を明らかにするとともに、利害関係者との協議から得た勧告を考慮し、且つ全利害関係者の異なる利益を調和させつつ、勧告に従わなければならない。

すべての下記に署名した団体は、インラック・シナワトラ首相及びタイ・EU自由貿易協定のタイ側交渉団長Olarn Chaipravat氏が、自由貿易協定の悪影響が国全体及びすべてのタイの人々に及ぶことを慎重に考慮すべきであることを繰り返し要望したい。貴下たちは今、そして次世代のタイ国民に代わって交渉しているのであり、タイの国民全体の利益がごくわずかな民間企業グループの利益の取引材料にならないことを保証することは、貴下たちの責務である。

敬具

【団体一覧】
准教授 Sumlee Jaidee、FTAウオッチ(FTA Watch)、エイズとともに生きる人々のタイ・ネットワーク(The Thai Network(TNP+))、ストップドリンク・ネットワーク(Stopdrink Network)、もう一つの農業ネットワーク(Alternative Agriculture Network(AAN))、貧民連合(Assembly of the Poor)、4地域のスラム・ネットワーク(4 regions of Slum Network)、腎機能不全患者グループ(Renal Failure Patient Group)、ガン患者グループ(Cancer Patient Group)、エイズに関するタイNGO連合(Thai NGO Coalition on AIDS)、エイズ・アクセス基金(AIDS ACCESS Foundation)、エイズ患者の権利基金(Foundation for AIDS Rights)、消費者のための基金(Foundation for Consumers)、地方薬剤師基金(Rural Pharmacists Foundation)、地方薬局協会(Rural Pharmacy Association)、医薬品研究グループ(Drug Study Group)、バイオ・タイ基金(Bio Thai Foundation)、生態系のための警戒と修復-タイ(Ecological Alert and Recovery-Thailand(EARTH))、タイ総合健康基金(Thai Holistic Health Foundation)、アルコール依存症のための労働者コミュニティー(Labor Community Affected by Alcohol)、バンコク・アルコールの危険を監視するネットワーク(The Network of the Alcohol`s Surveillance in Bangkok)、新たな酒飲者を守る若者ネットワーク(The Youth Network of the New Drinkers` Protection)、危害削減のための労働ネットワーク・12D(Harm Reduction Working Network(12D))、南東アジアたばこ抑制連合(SEATCA) (Southeast Asia Tobacoo Control Alliance(SEATCA))

写し送付先:商務大臣Boonsong Teriyapirom氏 
写し送付先:タイ・EU自由貿易協定交渉団長 Olarm Chaipravat氏

(翻訳:田中久雄/監修:廣内かおり)

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